自然にまかせた穏やかな最期

在宅医療専門のたんぽぽクリニックを開業して25年ほどたちます。たくさんの患者さんを看取ってきましたが、「亡くなる瞬間」に立ち会うことはめったにありません。それは亡くなる瞬間にどう対応したらいいかを、あらかじめ家族とお話ししているからです。亡くなったそのときは家族でお別れを十分にして、落ち着いてから連絡をいただくようにしています。

先日、60代の末期がんの男性の患者さんの診療に伺ったとき、臨終の場面に遭遇しました。患者さんの顔を見た瞬間「亡くなる直前だ」とわかったのですが、家族はわからなかったのでしょう。男性の妻は「今朝はよく眠っています」とのんびりとおっしゃいます。私が「もう亡くなられますよ。家族に集まってもらってください」と声をかけても、「こんなに穏やかなのに? さっき話しかけたら答えてくれましたよ」と信じられない様子です。