聞き上手は質問を「言いすぎない」
聞き上手さんは相手本位、聞き下手さんは自分本位。私もそうならないように気をつけています。聞き下手さんの例をあげます。
「年賀状って毎年書くのが面倒で、去年は結局年末までかかってつくったんだよ。手書きで書くのは大変、でも実際もらうとうれしいし、今年はどうしようかなって悩んでてさ。Aさんは毎年年賀状ってもらうとうれしい? 今年はどうしようかなって思っていてさ。結構時間取られて大変なんだよね。住所の管理とかさ、いろいろ考えるだけで気持ちが上がらない。なんかいい方法ないかな?」
このように聞かれたらどうでしょう? こちらの知りたいことを詰め込みすぎていると渋滞して相手が答えづらくなりますよね。相手は他者が言った情報の3割程度しか受け取れないもの、と考えるとうまくいきます。「こちらが言いすぎない」ことに気をつける。質問にもがまんが大切です。
「年賀状って毎年つくるの面倒だけど、実際もらうとうれしいものなんだよね。毎年どうしている?」
こうすると相手にゆだねる部分が出て、受け取る相手が答えやすい投げかけになります。相手に心地よく聞いて話してもらうために、「息継ぎタイム」をつくること。
絵も余白、テレビも余白、相手にとって考える余白が必要です。シンプルに質問して、「どうぞ」と相手にパスする。その間をとってみるだけでも違いますよ。

気をつかうと最後の釘が刺せない
当時、全日本学生新体操選手権大会で15連覇中だった、無敵の強さを誇る青森大学男子新体操部を取材したことがあります。
当時の監督は男子新体操界のレジェンド、中田吉光さん。チームを優勝に導く名将で、たたずまいに威厳があり、多くを語らないシブさがあります。徹底した完璧主義ゆえに、見えている現実とゴールの差を厳しく指導することも垣間見えました。
また、実技の完成度だけを指導するのではなく、「チームとして何が大事か」「一人一人の役割」など、心の在り方も指導されます。まるで現代の武士道。監督が発するひと言で空気がピリッとする、そんなときもありました。
そんな雰囲気をかもし出している監督にカジュアルに話しかけるのは簡単ではありません。臆病な私は、この張り詰めた空気から質問しづらく気づかうばかりに長ったらしい聞き方をしてしまいました。
「いやー、連戦連破の王者の貫禄が見えます。練習ひとつから完成度の高さをうかがえます。素人目ながら、次の大会も優勝は間違いないような気がしますがいかがでしょう。主将もチームを引っ張って活気あふれていますし。例年と比べたらどうでしょうか」
まるで質問になっていません。聞きたいことを聞けずに気づかいと質問がぐるぐる回っていて最後の釘が刺せていない。
そういう聞き方ばかりしていたので、結局、監督からも「ああそうですね」「その通りだよ」くらいの答えしか返ってこなかったのです。「もっと質問のしかたがあったんじゃないかな」「取材者として失格だ」と反省した経験があります。当時はどのように聞いたらよいか、要領を得ていなかったのです。