メニュー選びにも「後悔の回避」が作用している

私たちは、何かの決断や選択をするとき、いろいろな感情や思い込みが合理的な判断を押し退けてしまい、行動を誤ってしまうことがあります(これこそが行動経済学の本質ですね)。告白して、もし失敗してしまったら……。心が傷つく、恥ずかしい、相手との関係が悪化してしまうかもしれない。そんな「やらなきゃ良かった」という後悔のリスクを負うくらいなら、何もしないほうがいいと考えてしまうのです。

この現象を、行動経済学では「後悔の回避」と呼んでいます。やりたいことがあるのに、なかなかできずにいる人には、この心理が働いているかもしれません。「後悔の回避」は、日々の選択や決断にも影響を与えています。

例えば、「ランチでいつも同じメニューを頼んでしまう」「新商品よりも、ずっと使っている商品を選んでしまう」というような日常生活の小さな選択もその1つです。会社内での「何か新しい改革をやろうとすると、リスクをああだこうだ言われて反対される問題」も、決断を下す側の心理に対する「後悔の回避」の影響です。

「失敗したらどうするんだ?」
「今までうまくいっていたのだから、変える必要性がないだろう」
「会社の伝統を壊すのか」

現実的には、変わらないことによるリスクのほうが大きいケースもあります。それにもかかわらず、目先の「失敗への恐怖や不安」が先にくると、変化を避けることが正しいかのような意見が生まれてきます。

ユニクロは“後悔を減らすための戦略”を取っている

さらに、人は自分の考えを一度決めると、それを裏づける理屈ばかりに注目するようになります。これは「確証バイアス」と呼ばれる心理です。これによって反対意見はますます強固なものになり、結果的に新しいチャレンジができない状態になるのです。こうした状況に陥る原因は、必ずしも性格や意思の弱さとは限りません。さまざまな心理的バイアスが絡み合った結果なのです。

この「後悔の回避」という人間の特性をうまく活用してビジネスをしているケースは多々あります。例えば、ユニクロです。誰でも一度くらいは「たまには冒険してみたいかも」と、普段は着ないデザインや色の服を買った経験があるのではないでしょうか。しかし、ほとんど着ることがなくタンスの肥やしに……といった結果になってしまうこともありますよね。そんな、服に対する「買わなきゃ良かった」という後悔を減らすための戦略を取っているのがユニクロなのです。

ユニクロのコンセプトである「LifeWear」は、「進化し続ける普段着」と定義されています(「普段着」がポイント)。ユニクロには、極端に高価な商品はなく、品質は良くてもリーズナブルなものがそろっています。過度に流行を追った奇抜なアイテムはなく、色やスタイルもベーシックなものが基本です。