保険料の引き上げで自己負担も増える一方

ほかにも、公的な各種保険料の引き上げは止まりません。

中でも大きいのが、介護保険料の値上がり。

スタート時点で0.6%だった保険料率は、2023年度には1.82%と、約3倍になっています(図表1)。2024年度で見ると、1人あたり年間約7万5000円の支払いとなっています。介護保険料の徴収は40歳から対象となりますから、家族全員が40歳以上の家庭にとっては、まさに「増税」のような負担感があります。この背景には、介護保険創設当時に比べてサービス利用者数が約3.7倍にもなっていることが挙げられます(2022年度予算)。

介護保険料は3年ごとに見直しされ、次の見直しは2027年ですが、2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となるため、利用者増を見越して、さらなる値上げも予想されています。

【図表1】介護保険料率の推移(協会けんぽの場合)
資料提供=著者

また、2024年4月からは出産育児一時金の支給額が42万円から50万円に引き上げられましたが、その財源については、75歳以上の後期高齢者が加入する後期高齢者医療制度の保険料収入から一部負担することになっています。

上がっているのは医療保険、介護保険料だけではありません。利用者(主に65歳以上)の窓口自己負担割合も見直されています。

スタート時点では、1割だった被用者保険の自己負担割合は、2015年の改正で収入によって2割負担となり、2018年には単身世帯で年収340万円以上、2人世帯で463万円以上は、3割負担となりました。

【図表2】医療費の一部負担(自己負担)割合について
出典=厚生労働省HPより

厚生労働省は、今後、この2割、3割負担の範囲をさらに広げようとしているようです。

「高額療養費制度」の限度額は最高で8割増に

日本には、病気で働けなくなっても、いざという時に低い料金で救ってくれる社会保障制度があります。

中でも「高額療養費制度」は、病気などで長期的に治療しなくてはならない人にとっては命綱とも言える制度です。この「高額療養費制度」も2025年8月から限度額が引き上げられ、今後3年間で倍近く、年収によっては8割近くも負担が増えるという人も出てくる可能性があることは以前もお伝えしました

患者団体からヒアリングもせずに一方的に決定したことで大問題となり、見直しを迫られた政府は「高額療養費に年4回以上該当する人の自己負担額の見直しを凍結し、据え置く」と決定しました(2025年2月)。が、いずれにしても負担増の方向は変わらないようです。

「社会保険」を隠れ蓑にした、現役世代の負担増は、このように密かに進行しています。そして公的な分野以外にも、家計を直撃する「ステルス攻撃」はまだまだあります。次回は、そうした暮らしに影響するさまざまな施策を見ていきましょう。

荻原 博子(おぎわら・ひろこ)
経済ジャーナリスト

1954年、長野県生まれ。経済ジャーナリストとして新聞・雑誌などに執筆するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとして幅広く活躍。難しい経済と複雑なお金の仕組みを生活に即した身近な視点からわかりやすく解説することで定評がある。「中流以上でも破綻する危ない家計」に警鐘を鳴らした著書『隠れ貧困』(朝日新書)はベストセラーに。『知らないと一生バカを見る マイナカードの大問題』(宝島社新書)、『5キロ痩せたら100万円』『65歳からはお金の心配をやめなさい』(ともにPHP新書)、『年金だけで十分暮らせます』(PHP文庫)など著書多数。