女郎を利用して儲けた蔦屋重三郎をなぜ主人公にしたのか?

――蔦屋重三郎は「吉原細見」というガイドブックや女郎の姿を描いた浮世絵で儲けた“搾取側”とも言えます。なぜ彼を主人公にしたドラマをやることになったのでしょうか。

【藤並】彼が生きた17世紀後半の江戸時代――戦もなく、経済は成熟しているものの、どこか鬱屈とした閉塞感があり、かつ噴火や飢饉という自然災害の脅威にさらされている時代が現代と非常に似ている。その中で何者でもない人が江戸のメディア王と呼ばれるまでに駆け上がっていく。蔦重の生き様が、2025年の視聴者の皆さんに1年間見てもらう上でうってつけじゃないかと思って選んだんです。

そんな中、吉原は蔦重の出身地で原点であり、かつ彼が生み出していく浮世絵や本などの作品も吉原がバックアップしたり、吉原という舞台が描写されていたりするので、そこは避けて通れない。同時に、吉原が江戸の文化の中心地であったというきらびやかな部分だけではなく、女郎やそこで働く若い男性も含めた搾取の構造や貧困や格差も丁寧に描かないと、それは蔦重の原点や故郷を描いたことにならないよねという話を森下さんともしました。

NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」
©NHK
NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」

「蔦重もまた吉原で酷使されてきた搾取される側の人物」

――『大奥』は男女が逆転した架空の世界なので、構造のグロテスクさが際立っていました。今回は同じ制作チームであることに安心感を抱いた人も多いですが、搾取する側、消費する側の男性が主人公というところに難しさがあるのではないかとも思います。

【藤並】出発点が「吉原の性搾取を描きたい」ということではなく、蔦重の原動力やアイデンティティの根本が吉原にあるから描いたんですね。彼もまた幼い頃、親に捨てられ、吉原で奉公して生きてこなくちゃいけなかった、ある種、搾取される側の人物でもある。搾取の構造の中で生まれる格差や貧困をなんとかしたいと思う、その葛藤や創意工夫を丁寧に描けたらいいなと思っています。