「高齢者医療費の削減」が目的ではない
・小学生、未就学児の子どもがいる。子どものためのお金を優先させ、治療を断念する可能性もある(30代男性患者)
・ひとり親で、下の子は8歳。両親も兄弟もおらず、子どもの成人まで生きる必要があるが、治療を諦めざるを得なくなる(40代女性患者)
・母は「学生の親」兼「患者」。学費を優先して治療を諦めることで死んだら困る(10代男性・患者家族)
当然ながらSNSでもこの政府方針にたいして批判が沸騰、ネットでの緊急署名活動でも多くの賛同者が名乗りを上げたが、石破首相は1月28日の国会答弁において、方針変更はしない考えを示した。まさに「カネのない病人」には生きる権利は認めないと言っているのと、まったく同じ。石破首相には、悲痛な叫びがまったく聞こえなかったようだ。
私はこれまで、高齢者にかかる医療・介護費を削減するために延命処置を見直すべきなどとする「経済的優生論者」の政治家やインフルエンサーの言説にたいする批判を寄稿してきたが、これらの記事には少なからぬ読者から、若者の負担を減らすため高齢者医療費は削減すべきとの意見が寄せられてきた。だが今回の「改悪」は、実は「高齢者医療費の削減」を主眼としたものではない。

むしろ“まだ働ける年齢層”が狙い撃ちされている
私の勤務先では主として在宅医療をおこなっているが、その機能ゆえに患者さんの多くは高齢者だ。そして治療についても、抗がん治療をはじめとした高度な医療はおこなわない(おこなえない)し、高価な薬剤を使うこともまずない。したがって今回の「高額療養費改悪案」についていえば、直接大きな被害を受ける人はほぼいない。
つまり逆に言えば、今回の「改悪案」は70歳未満の病気を抱えた人を狙い撃ちにしたものと言えるのだ。年齢という属性によって命の軽重を差別する意見を野放しにしていると、そのうちその対象は、高齢者から障害者や病人という「社会にとってお荷物」とのレッテルを貼り付けられた人へと広がっていく。これも過去何度も私が指摘してきたことだが、まさにそれが現実のものとなりつつあるのだ。
先に示したアンケートでもわかるとおり、今回のターゲットは老若男女関係ない。もちろん右や左といったイデオロギーこそ、まったく関係ない問題である。疾患を抱える当事者はもちろんのこと、その家族までも追い詰め、まさにこの国に生きる全世代の命と生活に大きな負の影響をおよぼすことになる。「社会が崩壊する」といっても、けっして大袈裟ではないだろう。