「生きて、なんて言えない」

ユキサキチャットでもユースセンターでも、若者1人に対して支援者が1人だけで対応しないようにしている。1人の支援者だけが対応していると、その支援者への依存につながりやすいからだ。「複数の『頼れる先』や『気にかけてくれる人』がいると変わってくる。いろいろな人を紹介したり、関係機関につないだりして、話せる人を増やしていくことが大切だと思っています」

若者から「死にたい」という言葉を聞くこともある。そんなときには「生きて」とは言わない。今井さんもつらかった時期は踏切に飛び込みたい衝動にかられたことがあった。そんな過去があるからこそ「生きて、なんて言えない」のだという。

「僕の場合は、5年ほど『周りの人に顔が知られている」という状態が続いた。地獄なんですよ、本当に。しかも、その時点では5年後には状況が変わっているかどうかは分からない。『時間が解決する』と言っても、その時間が永遠のようにしか感じない。虐待を受けている子どもも、たぶんその状態が永遠に続くかのように感じていると思う。だから『死にたい』と言われても否定する気にはなれないですね」

ただ黙って一緒にいる

「生きて」と言う代わりに、黙って一緒にいる。苦しんできた子どもたちには、ただ隣にいてくれる人がいなかったからだ。「単純に『いる』だけでいいんですよね。いちいち言葉に出さなくても、それもコミュニケーションなので」

D×Pの予算規模は約2億7000万円(2023年度)で、そのうちの8割は寄付で賄っている。月額1000円から寄付できる月額寄付サポーターに登録しているのは3000人以上。130社近い法人からも寄付を得ている。今井さんは「資本主義経済や社会原理だけでは解決できない問題が社会にはあふれている。セーフティーネットがなくて落ちてしまう“空白地帯”があるので、セーフティーネットを作り直していきたい」という。そのために経営者向けに講演をしたり、記者会見をしたり、SNSでも発信を続ける。