23年末にステージ4の「すい臓がん」と宣告された森永卓郎氏。医師と患者がもっと対等になるべきだという医師の大脇幸志郎氏と、医療や健康との向き合い方について話してもらった。

2000以上の治療法をアドバイスされた

【大脇】森永さんは2023年12月、ステージ4のすい臓がんを患われたことを公表されました。その後の検査で「原発不明がん」と診断され、通院での治療を選択されたこと、現在どんな治療をしているのかなどを、詳細に発信されています。なぜご自身の病状を詳つまびらかにされているのですか。

【森永】そうでもしないと詮索され、噂が独り歩きするでしょう。ごまかすとあとで話に矛盾が生じ、取り繕うために違う嘘をつかなきゃいけなくなる。だから最初から包み隠さず、本当のことだけを言う。これは病気に限らず、私が生きるうえで基本方針としているところです。

【大脇】私は有名人が病気の詳細を公表することに否定的な立場です。お仕事は「病気で休みます」だけでは足りないのでしょうか。特定の病気に過剰なイメージがつき、一人一人に合わせて行われるべき治療に「森永さんはこれをやっているから」という、固定観念を植えつけてしまうのを懸念します。

【森永】私もその点は気にしていて、治療法に言及するときは「私には“たまたま”合った(合わなかった)」と強調しています。昨年12月27日、私は「アブラキサン」「ゲムシタビン」という抗がん剤を打って死にかけました。でも、隣でまったく同じ抗がん剤を点滴していたおばちゃんは、平気な顔をしていました。私に合わなかったのが“たまたま”だったのは明白です。

【大脇】『がん闘病日記』などを読んで、そのような配慮をされているのは感じました。一方で「病気や治療について情報公開すべきだ」といった無言の圧は感じないでしょうか。病気は本来誰にとってもプライベートな事情であるはずなのに、有名人にはそれが許されない空気があります。

残された時間を全力で過ごしたい

森永卓郎(もりなが・たくろう)
1957年、東京都生まれ。東京大学経済学部経済学科卒業。日本専売公社、日本経済研究センター、経済企画庁総合計画局、UFJ総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)を経て、獨協大学教授・経済アナリスト。写真=本人提供

【森永】がんを公表してから私のもとには「この治療をやれ」「この食事法がいい」というアドバイスが、2000件以上も寄せられています。謎の液体が入ったアンプルや、原料不明の粉末、奇跡の水やら食品やらが、毎日のように届くんです。善意でやられるから、なおさらたちが悪い。郵便料金不足で送りつけてくる人もいます。

【大脇】重病人に周囲がおせっかいなアドバイスをして困らせる事例は、19世紀に書かれたナイチンゲールの『看護覚え書』にも出てきます。なぜ余計なことをしてしまうのでしょうか。

【森永】善意でやってしまう人は、それが「その人にとっては」裏づけのある事実だからだと思います。自分や自分の家族には、効果があったのでしょう。けれどそれが「誰にとっても」効果があると勘違いしているところが、大間違いなんです。

【大脇】悪意のない人たちによる役に立たないアドバイスは、SNSでも飛び交っています。それに対して志のある医師や医療関係者が「誤解を招く書き込みは控えて」「情報を鵜呑みにしないで」と、一生懸命に火消しをしていることもあります。

【図表】「がん対策」に力を入れても死亡者増加傾向には変わりはない

【森永】免疫は前向きな気持ちになるだけで高まるから、信心で飲めば水道水でも効果は出ちゃう。ただ、どこの誰かもわからない人からアドバイスされても、効果はありません。謎のアンプルや粉末なんて怖くて口にできないから、皆さんどうか送らないでください。