母親でなかったら何が好きだったのか

母であることに充実感を持てない自分は、母親でなかったらどんなことをやっていて、何が好きだったのだろうかと考えるようにもなった。家族を優先するうち、自分の好みも趣味も、分からなくなっていたことに気がついた。

自分を取り戻すためにいろんなことを試しました。好きだった音楽や漫画に触れるとか友達と話してみるとか。どんな服を着るのがワクワクするのかとか全部考え直して、自分らしさをかき集めたような感じでした。楽しいことだけを短い時間、夜更かししてでもやるようにしたら、だんだん生き返ってくるような感じがしました。そのときに、やっぱり私はお母さんや妻としてだけでは生きていけないんだってことがすごくよく分かりました。

そうして思い出したことのひとつが、昔は漫画やアニメが好きでオタク気質があったことだった。育児の合間に何となく手を出したソーシャルゲームに登場する男性のキャラクターにはまり、グッズを買い集めた。同じゲームをする友達との交流も活力になった。好きなキャラクターの誕生日には、グッズを集めて飾り付ける「祭壇」と呼ばれる手作りのディスプレイを見せあった。

全力で応援を続けるうち、力がみなぎるような気持ちになった。

「推し活」でよみがえった情熱や喜び

推し活がすべてを解決してくれるわけではないものの、村田さんは「推し」をきっかけによみがえった情熱や喜びを他のことにも向けていけると考えている。

高橋歩唯、依田真由美『母親になって後悔してる、といえたなら 語りはじめた日本の女性たち』(新潮社)
高橋歩唯、依田真由美『母親になって後悔してる、といえたなら 語りはじめた日本の女性たち』(新潮社)

自分の好きなことを探すうちに村田さんは、文章を書くのが楽しいと感じることにも気がついた。知人から依頼されて絵本の原作を考えたり、ブログで自分の日常を綴ったりするようになった。これから仕事や子育ての合間に時間を見つけ、自分のペースで執筆を続けていこうと考えているという。

つらい時期を乗り切れたのは、「推し」のおかげだって感謝の気持ちがあります。今は本を読むにも1ページめくるごとに声をかけられて、トイレも行けないようなこともあるので、落ち着いて長い時間をかけて何かをすることがすごく恋しいです。子育ては子どもたちが成人するまでやりますけれど、自分が本当にやりたかったことは、考えてやっていこうと思っています。子どもが手を離れたあとの生活がいまから楽しみです。