自分をかき集め取り戻して浮かんだ「後悔」

村田さんにとって、自分の後悔を認識したことはどんな意味があったのか。取材の最後に、村田さんに「もう一度選べるなら、母になりますか」と質問した。

自分の育てている子どもたちは大事な存在なのでこの世にいないことを想像するのは難しいです。もう一度あの子どもたちが産めるなら産みますけれど、知らない子どもだったら産みたくないって思います。

子どもを育てるという経験は、別にもうしたくないです。面白い体験だとは思うけど、かかる労力を考えたら果てしない。

自分を主体にするんだったら、産まなかった方が多分、元気だったっていうか、いい人生を送れていたんじゃないかなって思います。自分の人生だけを考えたときに「産んでよかった」と心から言えるかというと、そうではないです。

母であることで、いつも自分ではなく子どもや家族を中心に考えて行動してきた。今もその状況は大きく変わっているわけではない。しかし、その村田さんが周囲のアドバイスや本の言葉をきっかけに、ふと自分の人生を真ん中に置いて考えてみたとき、今の状況で良いのだろうかと自問するようになった。

村田さんにとって後悔という感情は、散り散りになっていた自分を「かき集め」、取り戻し、自身を冷静に見つめることができるようになったときに、初めて浮かんでくるものだった。

いろんなお母さんがいることを認めてくれる社会なら

過去を振り返って評価することはせずに生活していくほうが良いと考える人もいるだろう。ただ村田さんの場合には、偽りなく今の自分の内面と向きあったことで後悔を直視できなかったときよりも気分はましになった。

「理想のお母さん」ならどうするかではなく、自分はどうしたいかを探すことで、以前より息がしやすくなった。

お母さんならみんな育児が得意で好きだと思う人もいるかもしれませんが、私はすごく苦手です。お母さんは全員同じじゃなくて、仕事が好きなお母さんも、しゃべるのが大嫌いなお母さんもいるし、子どもといつもギュってしていたいお母さんも、そうでないお母さんもいる。いろんなお母さんがいることを認めてくれる社会になれば生きやすいし産みやすい。

お母さんが抱きしめてあげないと満たされないとか、お母さんがこうしないとだめなんだよっていう圧がなければ、もう少し気楽に過ごせていたんじゃないかなとは思います。産んだ後にもいろんな選択肢があって、お母さんだって好きに過ごしていいっていう温かい目を周りが持ってくれるようになればいいなって思います。

髙橋 歩唯(たかはし・あい)
NHK記者

1989年新潟県生まれ。2014年NHK入局。松山放送局を経て、報道局社会部記者。『母親になって後悔してる、といえたなら 語りはじめた日本の女性たち』(新潮社)のきっかけとなったWEB特集「“言葉にしてはいけない思い?”語り始めた母親たち」、クローズアップ現代「“母親の後悔”その向こうに何が」を執筆・制作。家族のかたちをテーマに取材。

依田 真由美(よだ・まゆみ)
NHKディレクター

1988年千葉県生まれ。2015年NHK入局。札幌放送局を経て、報道局社会番組部ディレクター。クローズアップ現代「“母親の後悔”その向こうに何が」のほか、同「ドキュメント“ジェンダーギャップ解消”のまち 理想と現実」、BSスペシャル「再出発の町少年と町の人たちの8か月」などを制作。若者やジェンダーの問題を中心に取材。共著に『母親になって後悔してる、といえたなら 語りはじめた日本の女性たち』(新潮社)。