柳の木のようにそよそよと揺れながら生きよう

誰かから嫌われていると知ったとき、なぜ嫌われたのか深く考えるのはやめましょう。へーそうなんだ、とあっさり切り捨てましょう。人の気持ちなど、自分の力ではどうすることもできません。生きていれば嫌われることもあります。嫌われたっていいのです。あれこれ考えるとどんどんよくない方向に思考は向いていき、私たちは闇に落ちてしまいます。

何かにつけて自分と他人とを比べてしまう人は、SNSの情報にも、鈍感でいることを心がけましょう。そして辛くなったときは、そっとSNSを閉じましょう。

あの人鈍感だよね、と思われても構いません。本当のあなたはとても優しくて繊細な人です。繊細すぎる人は自分自身を責めてしまいやすいのです。完璧な人間などこの世にはいません。何が起きても「へーそうなんだ」くらいで丁度いいのです。

私が生きる上で大切にしている考え方。それは「柳のように生きる」ことです。「柳に風」という言葉があります。辞書で調べると、このようにあります。「柳が風に従ってなびくように逆らわないこと。また逆らわずにうまく受け流すこと」

私は発達障害の特性からか、自分の意見を曲げることができず、何度も人とぶつかってきました。ディレクターさんと関西弁の発音について喧嘩になり、仕事を下ろされたこともあります。居酒屋で知らない人と、くだらないことで口論になったことも何度かあります。なぜ、自分はうまく生きられないのだろう。ずっとそう悩みながら生きてきました。

そんなとき、柳に風、という言葉と出会いました。風が吹いたらその風に身を任せて、そよそよと揺れる。そのほうが楽に生きることができます。風に逆らって無理をしたら疲れてしまいます。そよそよと風に揺れる柳のように、いちいち反発せず、風に身を任せて、人の意見をうまく受け流していくようになってからというもの、人間関係のトラブルがずいぶん少なくなりました。

歌川広重「東都名所 両国夕すずみ」より
写真=iStock.com/BernardAllum
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他人の意見をうまく受け流す術

また、「柳に雪折れなし」という言葉もあります。柳の枝はよくしなるので、雪が降り積もっても振り落として、枝が折れることがないのです。暴風が吹いてもへっちゃら。堅い木ほど、雪が降り積もったらポキッと折れます。強風で折れてしまうこともあります。

中村郁著『発達障害・グレーゾーンかもしれない人の仕事術』(かんき出版)
中村郁著『発達障害・グレーゾーンかもしれない人の仕事術』(かんき出版)

柳の木のように、そよそよと風に揺られながら、決して折れることのない、しなやかな強さをイメージして生きることで、発達障害の特性ともうまく付き合えるようになりました。

仕事場でも、プライベートでも、自分の置かれている立場や境遇に反発するのではなく、まずは身を任せて見ましょう。そよそよとなびいてみましょう。他人の意見をうまく受け流しながら、心の中には決して折れない強い信念を持って、目の前のことに向き合いましょう。

柳は一見弱く見えますが、本当はどんな大木よりも強いのです。普段からその強さを表に出す必要はありません。柳のようなしなやかな強さを身に付けて、にっこり笑って生きていきましょう。

中村 郁(なかむら・いく)
ナレーター、声優

注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)併存の診断を受けた発達障害当事者。幼小時より過剰に集中しすぎてしまう「過集中」に悩まされる。この特性が災いし数々のアルバイトをクビになり「社会不適合者」の烙印を押されるが、偶然が重なりナレーター事務所に所属。もう絶対にクビになりたくないという強い想いから、発達障害を持ちながらも大きなミスをしないための数々のライフハックを生み出した。現在は、全国ネット番組のナレーションを多数務めつつ、発達障害の理解を広める執筆、講演活動を精力的に行う。著書『発達障害で「ぐちゃぐちゃな私」が最高に輝く方法』(秀和システム)。