リノベーションが仇となるケースは少なくない
リノベーションの問題については大津さんに限らず、かなり、よく聞く話です。最近家を手放したいとご相談を受けているご夫婦は、古民家暮らしに憧れていた夫の希望で土間や囲炉裏を設置したのですが、数年暮らした結果、妻が飽きてしまって、離婚話まで出るほどに。ただ、この方の場合は資産をお持ちだったので、妻が家を出て二拠点(別居)生活となる可能性が高そうではあるのですが、普通のご家庭の場合、今ある家や資産を元手にして新たな物件を購入するケースが大半でしょうから、「家」にまつわることは注意が必要なのです。
そして今、店舗経営でも似た話をよく聞きます。オーナーとしてはそのまま居抜きで貸し出しできればありがたいわけですが、テナントがこだわりのカスタマイズをしたが故に、次の借り手がつかない、という話です。「シンプルに事務所で使ってもらう方が、後が入りやすいから良かったのに」なんてボヤキをよく耳にします。個性的なお店が減ってしまうのはいち消費者として淋しいですが、オーナーさんの苦悩もわかるので、難しいところです。
大津さんの話に戻ると、家を売ったとしてもローンが残ってしまう状況のため、私からのアドバイスとしては、親などからお金を借りてローンを全額返済した上で、東京の賃貸暮らしに戻る手はあると思う、とお話をしました。大津さんは、「貯金をしつつ考えます」ということでした。
これから郊外の土地が放出される可能性も
現在、全体的に物件価格は上昇傾向にありますが、それも基本的には都心・駅近といったもともと値崩れしにくいエリアの話であり、駅から遠いといったニーズの低い物件の場合、価格は下降傾向です。
同様に、「相続物件」で値崩れが起きつつあります。今、人口のボリュームゾーンである団塊の世代が物件を手放しつつあり、今後、郊外の土地が大量に市場に放出されるのではないか、といわれています。彼らの子どもたち=団塊ジュニア世代は50代前半のため、すでに家を所有しているケースも多く、郊外の親の土地の相続は放棄するだろう、という専門家の見立てです。売却する側にとっては厳しい話になるのですが、逆にこれから家を持とうと考える若者にとっては、安価で郊外の土地を手に入れることができるかもしれず、「慌てずにまだ待って」とアドバイスするファイナンシャルプランナーもいます。
ただ、口を酸っぱくして言いますが、生涯を通して住む場合には、エリアもリフォームも問いませんが、事情が変わる可能性が少しでもあるなら、再販性を加味した家選び、家作りを考えた方が安全でしょう。また、今後金利が上がるとより人々は慎重になり、リセールバリューや出口戦略を考えて家を買う人が多くなると思います。
コロナ禍といった社会の変化と共に、自分自身の人生をどのようにデザインしていくのか考えながら、家選びと向き合っていただけたらと思います。
構成=小泉なつみ
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年前後のお金の強化書』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。