介護の充実は、国にとって大きなメリットになるはず

2000年に導入された介護保険はわが国の介護に大きな貢献をした。被介護者の生活の場として、特養、老健、高齢者ホームのような施設を作った。デイサービスのように、自宅生活をしていても介護サービスが受け入れられるようにした。自宅のバリアフリー化にも補助が出るようになった。自宅介護と看取りも保険が助けてくれる。介護の司令塔としてのケア・マネジャーの役割も大きい。介護保険の財政問題を云々する人は、介護保険による医療費の節減を評価すべきである。

黒木登志夫『死ぬということ』(中公新書)
黒木登志夫『死ぬということ』(中公新書)

介護保険は、40歳以上の国民に義務化されている保険である。その基本的な考え方は介護を社会の問題として捉えたことである。ともすると、儒教による家族観の下に、介護は家族がするもの、妻、嫁、娘の義務のように考える人がいた。それが日本の美徳であるかのように発言した政治家もいた。有吉佐和子でさえ、『恍惚の人』の介護を嫁の昭子に任せっぱなしにし、商社勤めの夫の信利には介護させなかった。

残念ながら、介護保険ができて20年以上経つのに、そのような古い考えはまだ残っている。介護休暇、介護離職は、やむを得ない事情があるにしても、本来であれば、介護保険がカバーすべき問題である。介護の充実は、国にとって大きなメリットになるはずである。働き手不足の解消にもつながる。

介護保険法は3年ごとに見直すことになっている。見直しが、財政だけを考えた改悪にならないよう、介護法を介護していこう。

黒木 登志夫(くろき・としお)
東京大学名誉教授

1936年生まれの「末期高齢者」(88歳)、東京生まれ、開成高校卒。1960年東北大学医学部卒業。3カ国(日米仏)の5つの研究所でがんの基礎研究をおこなう(東北大学、東京大学、ウィスコンシン大学、WHO国際がん研究機関、昭和大学)。しかし、患者さんを治したことのない「経験なき医師団」。日本癌学会会長、岐阜大学学長を経て、現在日本学術振興会学術システム研究センター顧問。著書に『健康・老化・寿命』、『知的文章とプレゼンテーション』『研究不正』『新型コロナの科学』『変異ウィルスとの闘い』(いずれも中公新書)など。