日本における安楽死
日本では、安楽死に関する問題の議論がまだ十分に行われていません。この難しい問題を避けようとしている風潮を感じることが多く、タブーとせずに議論をする必要があると私は思います。ただ、オランダの医師の報告などから、安楽死や自殺幇助が合法となると、ほかの手段(たとえば痛みであれば鎮痛薬の調整、こころの苦痛であればカウンセリングなど)でも苦痛が緩和しうる人に対して、安易に安楽死や自殺幇助が行われる恐れがあります。かたや、安楽死や自殺幇助が選びうる手段となれば、死にいたるまでの苦しみから逃れる確かな方法があるので、安心を感じる人もいるでしょう。
目をそむけたくなる課題をうやむやにすれば、うしろめたさや不安がこころに募ります。
あらゆる心配事にあてはまりますが、向き合うことはそれ自体に痛みが伴っても、疑心暗鬼にならず正しく対処するためには必要な行為ではないでしょうか。
1971年生まれ。金沢大学卒業後、都立荏原病院での内科研修、国立精神・神経センター武蔵病院、都立豊島病院での一般精神科研修を経て、2003年、国立がんセンター東病院精神腫瘍科レジデント。以降、一貫してがん患者およびその家族の診療を担当する。2006年より国立がんセンター(現・国立がん研究センター)中央病院精神腫瘍科に勤務。2012年より同病院精神腫瘍科長。2020年4月より公益財団法人がん研究会有明病院腫瘍精神科部長。日本総合病院精神医学会専門医・指導医。日本精神神経学会専門医・指導医。