結婚は選択肢の一つでしかない
結婚相談所を掲げていながら、中村さんは改めて、結婚が全てではないと考える。
「結婚は幸せになるための手段であり、選択肢の一つでしかない。子どもが欲しくない人の結婚したい理由の多くは、世間体や老後ひとりの不安。世間体は職場を替え、年齢を重ねれば変わるもの。だから、本当に結婚が必要かどうか。『老後ひとりの不安って、結婚以外の選択肢はないですか?』と話すと、多くの方は『助け合い、支え合える人がいれば、結婚は必要ない』って言いますね」
現在「カラーズ」が配信、運営している「マッチングアプリ」は、人生のパートナーを見つけるためのものとされている。
「つまり、結婚以外の選択肢です。セクシャルマイノリティのために、性的関係のない相手を探すアプリとして売り出していますが、セクシャリティに関係なく、人生のパートナーを見つけるためのアプリとして広げていきます。結婚にこだわらない女性は、同性でいいと言いますね。ルームシェアでいい。一緒にいられれば、老後も安心ですって。そういうパートナーって今まで、どうやって探せばいいかわからなかったので」
日本では未だに、女性の幸せの選択肢は結婚しかないという固定観念が、二重にも三重にも女性を縛り付けている。サラリとそれを外し、心地いいものに組み替えていく、一つの道がここにある。手枷足枷が消えていく爽快さは、自分で人生の幸せを決めていく“自由”の大切さを、改めて呼び起こしてくれるかのようだ。
結婚における性行為の役割を切り分ける
中村さん自身は「カラーズ」の活動を通し、結婚して子どもを育てる人生を自ら選んだ。
「会員の方々から影響を受けました。29歳で、30代半ばや40代の人の話を聞いていたわけですが、『経済的に自立していても、結婚したい』、『産めるうちに、子どもが欲しい』という本音に接し、自分も考えなくてはと。会員の方々と話していると『結婚と、恋愛は、違うもの』だとわかります。そのころ、友人のように思っていた男性と冷静にいろいろ話し合って、条件も合ったので、彼と結婚を決めました」
結婚は32歳。2人の子どもも授かった。自然妊娠にこだわらなかったことも、夫とうまくいっている秘訣だと言う。
「妊活を始めると言ったら、夫は一緒に病院に行ってくれました。夫は子どもが欲しい人だったので、自然妊娠できたらラッキーぐらいに思って、人工授精をしましょうと。『子作りの基本は、人工授精でいこう』って。そのほうがお互いにプレッシャーがないから、と」
結婚にまつわる性行為のがんじがらめの役割を、夫婦合意の上で見事に切り分けたのだ。
中村さんが「友情結婚相談所カラーズ」を立ち上げ、「結婚」から性行為を除いたことで、全く違う視界が鮮やかに、さまざまな角度から見えてくる。「結婚」という名の下に潜む呪縛から、私たちはそれぞれの立ち方で、もう少し自由になってもいいのかもしれない。
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)などがある。