寅子が新潟に転勤する展開に描きたかったことを詰め込んだ
この展開のきっかけとなったのは、寅子のモデル・三淵嘉子さんが同僚たちとラジオに出たとき、女性法曹の道が家庭裁判所に限られていくことについて長官に意義申し立てしたというエピソードです。私は三淵さんがその発言がきっかけで判事になったとき名古屋地裁に飛ばされたのかと思ったのですが、取材担当の清永聡さんから、「おそらく長官はそこまで考えていない。そういう意図の人事ではなかったと思います」と言われ、性別には関係ない人事だったんだろうと思ったんですね。
その部分はドラマでは新潟への転勤として描きましたが、では、男性の場合はあまり問題にならないこと――家族を置いていくのか、娘の優未はどうするのかと考えたとき、そこで寅子と優未が親子2人になる意味がないとダメだと思いました。もともと寅子がオヤジ化するタイミングはどこかで入れたくて、そのタイミングを決めあぐねていたのですが、花江や弟、甥たちに責められるやり取りは、寅子が30代~40代の中でいるうちにやらないと意味がないな、と。
寅子がもっと上の立場や年齢になるときにやると、退官する穂高先生が言っていた「出がらし」に近くなってしまうので、意味がないと思い、寅子が地方に赴任するときに合わせて描くことにしました。このあたりは、自分がやりたいことと世代の問題、社会構造の問題などのパズルのはめこみのような作業になっています。
妊娠で弁護士を辞めた寅子が、妊娠した後輩のために動く
そして、後輩の判事補・秋山が妊娠し、仕事を辞めなければいけないかと思い悩みました。かつて最初の結婚と出産で同じくやしさを味わった寅子が中心になって、産休の制度を作るために動く展開もありました。これも寅子が穂高先生の出がらしポジションでやるとあまり意味がなく、中堅だからやる意味があると思っています。新潟編前からこの第22週までは中堅ゾーンで、この段階での寅子ができることを意識して描いています。
寅子の中堅ゾーンからは、扱うテーマもわかりにくい差別になっていきました。例えば女学生時代から法曹の道を歩み始めたばかりの頃のように、女性が大学に入れないとか、弁護士になれないといった制度上の差別や権利の侵害は今、ほぼないじゃないですか。それらはわかりやすい差別なので、それと闘う寅子をみんなが全力で応援してくれました。でも、だんだん今も解決していない差別や、同じ女性でもわかってもらえるとは限らないような差別になると、賛否が出てくる。寅子の行動はずっと変わっていないのに、周囲や社会がそれを許さなくなるという展開を描きたいと思っていました。