財務価値と非財務価値をともに高める

最勝寺さんは2023年からCFO、コーポレート統括本部長に就いている。主に財務と組織について考える立場だ。

「CFOとコーポレート統括本部長のミッションは、会社の財務価値と非財務価値をともに向上させること。かつて企業は業績の向上が第一義とされましたが、現在ではそれだけでは足りません。株主の方たちをはじめとして、ステークホルダーは非財務価値も同時に求めている。企業価値の向上にはどちらも必要な時代だということです」

ロールモデルは必要ない

KDDIでは人財ファースト企業への変革も進めている。女性活躍推進については、髙橋誠社長と各管掌のトップが参加する「女性人財開発会議」が定期的に開かれ、議論を重ねている。同会議で、経営基幹職(管理職層)における女性比率の目標は、15%で掲げている。各管掌の課題や好事例を共有し、ボードメンバーの意識を合わせる場だ。

女性の取締役は、社内と社外を合わせて現在3名で25%に当たる。

最勝寺さんは「誰もが主人公の時代、ロールモデルは必要ない」と言い切る
撮影=遠藤素子
最勝寺さんは「誰もが主人公の時代、ロールモデルは必要ない」と言い切る

社内取締役となった最勝寺さんは、KDDIの女性活躍推進でロールモデルの1人とされて当然だろう。しかし、最勝寺さん本人はロールモデルについてこう考えている。

「女性活躍推進でロールモデルが重要といった話を聞きます。しかし私自身は必要ないと考えています。私がリスペクトしてきた人たちはそれぞれに優れた点がありますが、完璧というわけではありません。だから、いいところだけを盗む。仕事の進め方が素晴らしいとか、対人関係がうまいとか、ちょっとずつつまみ食いする。多様性の時代ですから、誰もが主役だと考えれば、ロールモデルとして1人を選ぶ必要はないと思うんですよね」

多様なタイプがいるから組織は強くなる。“社内初”“女性初”に彩られたキャリアも最勝寺さんの個性あっての結果といえそうだ。

伊田 欣司(いだ・きんじ)
ライター