「障害者」を表す手話に子どもが抱いた疑問

「ホワイトハンドコーラスNIPPON」は2021年12月に東京芸術劇場でベートーベンの「交響曲第九番(歓喜の歌)」を披露した。第九を手歌でどのように表現するか話し合うところから始め、声隊のメンバーはドイツ語の歌詞を暗譜。稽古を繰り返し、プロのオーケストラと合唱団とともに舞台に立った。

2024年2月、オーストリア国会議事堂でパフォーマンスするホワイトハンドコーラスNIPPON ©︎ Miyuki Hori
2024年2月、オーストリア国会議事堂でパフォーマンスするホワイトハンドコーラスNIPPON ©︎ Miyuki Hori

この取り組みは「第九のきせき」という写真展にもつながった。写真家の田頭真理子さんのアイデアで、子どもたちが第九を手歌で表現する際に手袋の中に小さなライトを入れ、手歌の表現を視覚的に見せられるようにしたのだ。

ホワイトハンドコーラスNIPPONは、24年2月には海を越えてオーストリア国会議事堂や国連ウィーン本部でパフォーマンスをした。演奏を披露するとともに、オーストリア国会議事堂では、メンバー2人が英語と手話でこう伝えた。

「日本手話で障害者は『壊れた人々』と表現されます。でも私たちは壊れているのでしょうか? いいえ。私たちは違っていて、そしてユニークなのです。だから私たちは『障害者』の手話を変えるための活動を始めました」

歌詞にある「障害者」の表現について話し合っていたときに、子どもから「おかしくない?」と声が上がったのがきっかけだ。最終的には「個性のある人々」と表現することにした。2025年に東京で開かれるデフリンピックに合わせて「障害者」の日本手話を変えたいね、とみんなで話し合っているという。

「芸術と社会は切り離せないし、音楽家も市民の一人。まだ世界では実現できていない新しいアイデアや理想の姿を、舞台では作っていけると思っています」とコロンさんは言う。

写真家、田頭真理子さんによる「第九のきせき」の中の1枚
撮影=田頭真理子 ©︎ Mariko Tagashira
写真家、田頭真理子さんによる「第九のきせき」の中の1枚

学ぶ場が分かれてしまうことへの危惧

日本では、特別支援教育を受ける子どもの数が増え続けている。専門的な教育を受けられるのは良いけれど、障害の有無で学ぶ場が分かれてしまうことをコロンさんは危惧しているという。

「私は『すみません』と日本語で道を聞いても、『ソーリー、ノーイングリッシュ』と言われることがあります。もし日本語がペラペラの外国人を一人知っていれば、こういう反応にはならないと思うんです」

同様に、学校で多様な人に出会わなければ「耳が聞こえない人に出会ったことがない」「目の見えない人が周りに一人もいない」というまま大人になるかもしれない。そうしたら、街の中でそんな人たちを見かけても「お困りですか」と声をかけることを躊躇してしまうのでは――。だからこそ、「ホワイトハンドコーラスNIPPON」では誰もが参加できることを大切にしている。

ホワイトハンドコーラスNIPPONでレッスン中のコロンえりかさん(左)
撮影=田頭真理子 ©︎ Mariko Tagashira
ホワイトハンドコーラスNIPPONでレッスン中のコロンえりかさん(左)