集団の規模の違い

また、ネアンデルタール人は私たち人類と違って、脳梁が発達していなかったという研究結果もあります。脳梁とは、右脳と左脳とをつなぐ神経線維の束のことです。つまり、左右の脳の連携がうまく働かなかったことが、生存競争において不利になったのです。

一般に、左脳はもっぱら言語や論理的思考を、右脳は直感やイメージなどを司ると言われています。この二つを結びつける脳梁が発達している方が、コミュニケーション能力が高く、集団生活に適しているという説があります。

ネアンデルタール人は、家族単位の小さな集団で生活していたと思われる一方、ホモ・サピエンスは、複数の家族が寄り集まり、150人規模の大集団で行動していたというのです。集団の規模が大きくなればなるほど、コミュニケーションは盛んになります。

たとえば石槍などの道具ひとつ取っても、そのアイデアや、それを作り出す技術などが、世代を超えて継承されやすくなり、大勢が知恵を持ち寄ることによって、方法がさらに改善されていくことにもつながるでしょう。家族単位の集団では、その家族が死に絶えた時点で技術も途絶えてしまいます。

脳
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決定的な違いは食生活

集団の規模を大きくすることで技術革新が加速していく過程を、“集団脳”の獲得と呼ぶのですが、その“集団脳”を獲得できたかどうかが、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの運命の分かれ目だったということです。そこには、脳梁の太さの違いが関係していたはずです。

そうした要因もさることながら、両者の命運を分かつ最大の決め手となったのは、食生活の違いだったのではないかと私は考えています。

ネアンデルタール人が登場した時代のヨーロッパは寒冷な気候で、荒れ地が広がっていたため、彼らの食生活は、肉食に偏る傾向が強かったと考えられています。彼らが口にする食物の80%は、マンモス、サイ、ヒツジ、イルカ、ハトなどの動物で、残り20%が野菜でした。特にタンパク質に関しては、摂取したもののほとんどすべてが動物由来であったことがわかっています。