株価はいつか戻るはずという幻想

たとえば学生時代、私はライブドアショックという新興株バブルの時に、新興株ばかりに投資をしていた保有資産を、3分の1に減らした経験があります。

あの時、保有していた株が現在どうなっているかを見てみると、当時の価格以上に値上がりしているものは皆無でした。

こんな話をすると、「優良大企業の株価は別だ」と言われそうですが、東芝の上場廃止などを見るかぎり、いつかは株価は戻るはず……という幻想に囚われてはいけないと感じます。

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もちろん、優良大企業に銘柄分散をしている日経平均は別物のように思えますが、バブル崩壊から株価が復活するのに30年ほどかかっています。

資産運用でお金を増やしたいと考えているのは、いつか使うあてがあるからこそ。でも、株価が戻るのに莫大な時間がかかるようならば、その時には生きていないかもしれません。

だからこそ、資産が目減りする可能性を小さくするためにも、資産分散が重要なのです。

長期投資への疑問を呈したキンローたち

こうした苦言は、私個人の戯言たわごとに聞こえるかもしれません。

しかし、プロの投資家も警鐘を鳴らしています。著名投資家であるウィリアム・キンローたちの著書『誤解だらけのアセットアロケーション 実務家のためのガイド』は、時間分散をしながら、長期で投資をすることが本当にリスクを小さくするかについて疑問を呈しています。

また、ノーベル経済学賞を受賞したマーコウィッツの言葉を引用しながら、その理由についても触れています。投資タイミングがずれるということは、その時々で計算される理論価格(≒評価)そのものも変化しているので、そもそも分散と言えるのか、ということです。

もちろん、私もお財布には優しい長期投資を前提に新NISAをしていますが、いつ花開くかは未知数。価格変動に対して心理的ストレスを小さくするためにも、長く耐えしのげる資産分散を心がけたい今日この頃です。

崔 真淑(さい・ますみ)
エコノミスト

2008年に神戸大学経済学部(計量経済学専攻)を卒業。2016年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。一橋大学大学院博士後期課程在籍中。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後は、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)でアナリストとして資本市場分析に携わる。債券トレーダーを経験したのち、2012年に独立。著書に『投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)などがある。