自己の姓を選択できる自由を求めて50年
第三次集団訴訟で弁護団長を務める弁護士の寺原真希子さんは、過去2回の訴訟でも弁護団の一員として関わってきた。選択的夫婦別姓を求める訴訟の経緯について、こう説明する。
「そもそも1947年に日本国憲法ができて、民法改正によって家制度は廃止されましたが、夫婦同姓制度は維持されました。この制度については、その当時から問題視されており、1970年代からは女性団体などによる選択的夫婦別姓を求める活動が活発化し、現在まで多くの人びとがさまざまな形で力を尽くしてきました。私たちの訴訟は、その積み重ねの中にあります。原告の主張はシンプルで、結婚する際に同姓か別姓を選べるようにしてほしいというもの。現在の夫婦同姓制度は、憲法に照らし合わせると3つの条文との関係で問題があります」
1つ目は、13条が保障する人格権の中に「氏名権」があり、自分の名前に関する権利が保障されているが、結婚時にいずれか片方が改姓を強制されることは「氏名権」の侵害ではないかということ。2つ目は、平等原則を定める14条によって、「人は誰しも平等で差別されない」ことが保障されている。にもかかわらず、同姓希望者は結婚(法律婚)できるが、別姓希望者は結婚できないのは差別ではないか。さらに、実際には95%の夫婦において女性側が改姓しているという不平等も指摘する。そして3つ目は、24条で「婚姻の自由」や「個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した法律の制定」が保障・要請されているが、「結婚」か「改姓」かの二者択一を迫る現行の夫婦同姓制度の下では、それらは確保されていないといった問題をあげる。
だが、過去2回の訴訟では、現行の規定は「合憲」とされ、選択的夫婦別姓の導入には至らなかった。最高裁の判断について、寺原さんはこう語る。
「最高裁が夫婦同姓制度に合理性があるとした主な理由は2つで、1つは夫婦同姓にすることで家族の絆が強まるというもの。2つ目は、改姓しても旧姓を通称として使うことで不利益は緩和されるというものです。しかし、家族の絆がどんなことで深まるかはそれぞれで、同姓にすることで深まると感じる人は同姓とすればよいだけです。また、通称使用について言えば、実際に通称を使えない場面は数多くあるうえ、改姓による『アイデンティティの喪失感』を通称使用で補うことはできず、だからこそ訴訟が提起されたのです」