再婚した頃、世間注視の「原爆裁判」も担当していた

ところで、優しい前夫・芳夫さんと、イギリス紳士型の乾太郎さん。タイプは少し違うかと思いますが、二人に共通しているのは、穏やかで物静かだったことのようです。やはり嘉子さんがパワフルで賑やかな方ですから、亭主関白的な男性はあまりお好みではなく、自身を理解してくれ、仕事にも協力的な男性の方を求めていらっしゃったのかもしれません。

佐賀千惠美『三淵嘉子・中田正子・久米愛 日本初の女性法律家たち』(日本評論社)
佐賀千惠美『三淵嘉子・中田正子・久米愛 日本初の女性法律家たち』(日本評論社)

嘉子さんが乾太郎さんと再婚するのは、名古屋地裁から東京地裁に戻ったあとの昭和31年(1956年)8月。嘉子さんは東京地裁で、広島と長崎の原爆被害者が国を被告とする裁判を提起した「原爆訴訟」を担当しています。この裁判は1955年に始まり、9回の口頭弁論が開かれ、1963年まで続いた長く、注目度の高い裁判でした。

1963年12月7日には、東京地方裁判所が原告の請求は棄却しましたが、米軍の広島・長崎への原爆投下は国際法に違反すると記載した判決が下されました。出された判決は、担当の裁判官による合議体なので、嘉子さんだけでなく多数決で決めたものですが、再婚後の生活を送りながら、この重大かつ注目を浴びる事件も担当していたわけです。

今後、この原爆裁判が朝ドラで描かれるのか、もし描かれるとしたら、寅子はどんなことを考え、どんなことを話すのか。恋模様と共に気になるところです。

取材・文=田幸和歌子

佐賀 千惠美(さが・ちえみ)
弁護士

1952年、熊本県生まれ。1977年、司法試験に合格。1978年、東京大学法学部卒業。最高裁判所司法修習所入所。1980年、東京地方検察庁の検事に任官。1981年、同退官。1986年、京都弁護士会に登録。2001年、京都府地方労働委員会会長に就任、佐賀千惠美法律事務所を開設。著書に著書に『刑事訴訟法 暗記する意義・要件・効果』(早稲田経営出版)、『三淵嘉子・中田正子・久米愛 日本初の女性法律家たち』(日本評論社、2023年)、『三淵嘉子の生涯~人生を羽ばたいた“トラママ”』(内外出版社、2024年)