女性票の離反を招いた「代理母」や「控除」発言

また、2019年に蓮舫氏が、ニュージーランドで男性議員が同性パートナーとの間に代理母出産で子どもを授かり、子連れで議会に出席したことについて「この多様性を当たり前にしたい」とツイートしたことが“発掘”されてSNS上で話題になった。

これが一部では、代理母の肯定だと受け止められて批判を集めたが、蓮舫氏本人は特に否定しなかったことも、女性票を減らすことにつながった。例えばウクライナなどでは、代理母が合法化されており、外貨を稼ぐビジネスとなっている。国民皆保険制度が整備されている日本は、近年円安と物価の安さから、代理母ビジネスの格好の供給先になりえるという指摘もあり、警戒している女性たちもいるのである。

蓮舫氏が選挙中の演説で「現役世代は子どもが産まれれば、控除が増えていく」と発言したことにも、批判が集まった。実際は、子どもが生まれても税金が控除されることはなく、過去にあった、16歳未満の子どもがいる場合に税金が控除される「年少扶養控除」は、民主党政権時代の2011年に廃止されている。少子化担当大臣も経験した蓮舫氏が、年少扶養控除廃止を忘れたかのような発言に、大きな反発を集める結果となった。

控除廃止の代わりに支給が始まった子ども手当は、0歳から中学卒業までの子どもに支援金を支給するものだったが、翌年には廃止され、所得制限のある児童手当が始まっている。つまり、所得制限に引っかかって児童手当が受けられない、年少扶養控除の恩恵を得られたであろう層を、狙い撃ちにしたかのような増税効果をもたらしている。こうした背景から、蓮舫氏の発言は、子持ち世代の離反も招いた。

「味方に背後から撃たれた」選挙後コメント

そして選挙の後、蓮舫氏を応援する「市民連合」がインスタグラムに「一生懸命に応援した蓮舫さんが、1年後には忘れ去られているのでなければテレビのコメンテーターになってそうな泡まつ候補に抜かれてしまったのは、深く傷つく経験となりました」と投稿しているのを見たときには仰天した。

「泡まつ候補」は、石丸氏を指すとみられている。蓮舫氏を応援するあまりのことだろうが、蓮舫氏にはマイナスにしかならない。これでは味方に後ろから撃たれるようなものではないか。案の定、大きな批判があがり、蓮舫氏への否定的評価に結びついた。

蓮舫氏も応援する人たちも、いまは「結果を受け止めます」と静かにしているべき時だ。選挙が終わってなお、バッシングが止まない蓮舫氏が気の毒になるほどの状況だ。

選挙が政策以前に戦い方で決まってしまうことは、やや残念ではある。がしかし、その戦い方自体から、見えてくるものも多いことを実感させられた都知事選だった。

千田 有紀(せんだ・ゆき)
武蔵大学社会学部教授

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。ヤフー個人