自己主張の練習を支援する
部下に、インポスター症候群の傾向がある場合は、どう対応したらよいのでしょうか。
周りの人、特に上司は、以下の点に気を配るとよいでしょう。
まず、支援的かつ肯定的な声掛けをしてあげてください。そして、自己主張をする練習ができるよう、促してほしいと思います。
例えば、会議などでは、もちろん本人が自分から手を挙げるのが理想ですが、最初のうちは、「○○さん、意見/質問はありますか?」などと、パスを出してあげましょう。そして、そこで挙がった意見や質問に対して、支援的で肯定的な声掛けをすると、自己主張をすることに対する安心感や自信につながるはずです。
相談の機会を作り、自分の体験談を話す
2点目は、1on1を設定するなど、相談の機会を多く持つことです。
インポスター症候群の女性は、自分から相談を持ち掛けることが苦手な人が多いです。相手の時間を自分のために割いてもらうのは申し訳ないと遠慮してしまっていたり、相談することは自分の力不足を露見することになり、期待を裏切ってしまうのではないかと考えていたりするためです。
ですから、最初のうちは、上司のほうから1on1の時間と場所を決めるなどして、相談にのるようにします。たとえば、「毎週水曜日の3時からは進捗状況を聞かせて」などです。
3点目は、上司自身が管理職になったばかりのときにどうたったかという、体験談を話すことです。
インポスター症候群の人は、周りの人と自分を比べて、自分の足りない部分にばかり目を向けてしまう傾向があります。管理職10年目の上司と、今の自分を比べて、「私はあの上司のようにはできない」と、自信をなくしてしまったりするのです。上司の方は、管理職としての経験が10年もあるわけですから、本当は比べても意味はないわけですが、なかなかそこには気付きません。
だからこそ上司は、自分が管理職になったばかりのときは、どんな失敗をしていたか、どんなことに悩んだり不安を持っていたか、といった話をしてあげてください。そうすることで、「上司にもそういうときがあったのか」「最初から完璧にやる必要はないんだ」と思えるようになると思います。
「インポスター症候群」は会社の損失
こうした上司や周りの人たちのサポートに加え、会社の社風を変えていくことも求められます。
せっかく能力が高く、ポテンシャルが高いのに、インポスター症候群のせいで活かせていない人材があるとすれば、会社にとっても損失です。
女性でも男性でも、能力のある人が評価されて昇進する。性別や年齢、バックグラウンドに関わらず、良い意見をどんどん吸い上げていく。ミスをしても一人で背負う必要がなく、普段からみんなでサポートし合う雰囲気がある。こうした社風が広がれば、インポスター症候群で昇進を辞退したり、メンタルヘルスを損なったりする人も減っていくはずです。
構成=池田純子
産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。