性別違和に悩む少女や家族に必要な本
昨年10月、日本の性同一性障害特例法で、戸籍上の性別を変えるために必要とされてきた、生殖機能を失わせるための性腺摘出手術は、「心身に侵襲的(負担を与える)」として違憲であると最高裁が判断した。
テストステロン(いわゆる男性ホルモン)を摂取している場合は、きちんと継続的に摂取をしないと、卵巣が子宮内膜を増殖させるように刺激して細胞が変質し、子宮内膜がんの危険性が高くなるという。したがって5年も経過すれば予防措置として、子宮と卵巣の摘出手術が勧められるのだという。
日本社会に住む私たちはどうすればいいのだろうか。性別違和に悩んでいる少女たちやその家族にとって、この本に書かれている情報は、まさに重要な、必要とされている情報なのではないだろうか。
出版後も続く批判
ところが、この本が出版されたことに対する批判はまだ続けられている。
Xの投稿によると、産経新聞出版の元々の帯が見えないように、上から手製らしい帯をつける書店が現れたという。その帯にはぎっしりと文章が書き連ねられている。曰く、「内容についてはアメリカでも賛否両論で、科学的根拠を疑う批判もある」
そして以下の言葉が引用されている。
「読んでから判断したかった」との声も多いが、日本の社会にはトランスに関する正しい情報が不足し、差別をあおる言説や虚偽の情報が広がる。社会にリテラシーが蓄積されていない現状では、残念ながら「公平な議論」は容易ではない。
日本社会にはリテラシーがないので、賛否両論がある本を読むことは控えるべきだという主張に読める。さらに「論争の的になっていることもあり、他の関連書を合わせ読んだり、批判的な見解にも注意しながら、慎重に読むことが期待される」
また、Xではほかにも、「この本を見るだけで傷つき脅威を感じるトランスジェンダーがいるのだ」と店頭で書店員に詰め寄り、書店を経営する会社にも書店員を名指しで抗議のメールをしたと告白したあとで、「ここから俺の戦いが始まる」というポストをしている人がいるのも見た。
海外の教訓から、私たちが何を受け取っていくのかが問われている。
1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。ヤフー個人