良心がある人なら他の日でカバーする
【パックン】子どもが熱を出したときの対策を考えてほしいということですね。
【エミン】子どもが熱を出すとか出さないとかではない。子どもは熱を出すものだから。そうではなく、子育てをする家庭をさまざまな面で優遇するために周りにしわ寄せがいって、それが小さな摩擦を生んでしまう。
【パックン】それは毎日の仕事の中でコミュニケーションを取りながら。
【エミン】そうなったらいいんだけどね。
【パックン】自分が仕事を抜けたのであれば、どこかで恩返しをするのが大人のやり方だと思う。僕は母子家庭で育ったから、熱を出したときにはお母さんが仕事を休んで迎えに来てくれた。助かりました。
僕がスポーツでケガをしたときも緊急救命室に連れていくためにお母さんが呼び出されて来てくれました。その代わりお母さんは夜遅くまで働いて、僕は朝から晩までお母さんに会えなかった日も多かったです。
【エミン】パトリックさんのお母さんは、良心を持ったいい人です。普通はそうだと思います。私の母も教師だったので同じです。休まなければいけないときには、他の日にそれ以上に働いていました。
【パックン】でも、本当はそんなつらい思いを親にも子にもさせたくないです。いままで日本は専業主婦が一般的で、お父さんが“働きアリ”で、お母さんが“子育てアリ”だったかもしれない。でもいまはそうではなくなったため、摩擦が起きているのです。
でも、それは過渡期のショックなだけだと思います。30、40年が経って、いまの子どもが親になれば自分の子どものころのことを覚えているはずです。「ケガで早退したときにお母さんが迎えに来てくれた」「お父さんが仕事を休んで学園祭に来てくれた」「その時は親の同僚がフォローしてくれた」「だから自分も周りの親を応援しよう」となるでしょう。数十年後には。
子育て世代の応援と出生率は連動しない
【エミン】もちろん応援すべきだと思う。ただ、応援しても人口は増えませんよ。
【パックン】(笑)
【エミン】これは価値観の問題です。出生率の低下は人類の進化と深いつながりがあると思っています。さらにその国の発展度合いとも深く関わっている。国が発展すればするほど、人口は増えなくなります。たとえばノルウェーをみると、ありとあらゆる支援をしていますが、出生率は一向に上がっていません。
【パックン】上がらないね。
【エミン】これは「子どもをつくらない」という価値観です。そのうち国が子どもを人工的につくるようになるかもしれない。
【パックン】人工的に?
【エミン】そう、人工的に作って、ロボットナニーが育てて。
【パックン】人工人口?
【エミン】そう。人工人口。
【パックン】人工人口増加。
【エミン】そうやって子育てに手間暇をかけなくなったら、時代が変わるかもしれないけど。そうでなければ、日本の出生率は変わらないですよ。
【パックン】僕もまったく同意見です。いくら子育てしやすい国にしても、出生率は2.0には絶対に戻らないです。
【エミン】出生率は上がらないでしょうね。
【パックン】出生率が2.1以上でなければ人口は維持できないらしいです。それは夢のまた夢です。
【エミン】(笑)
【パックン】ただ、子育てしやすい国にはしたいと思いますよ。
【エミン】私もそう思います。
【パックン】自分の子どもが子どもをつくる選択をするかどうかわかりませんけど、「子どもをほしいけど、この国じゃ育てられない」とは思わせたくないです。僕は孫を見たいです。
スタイリング=末次秀彦(パックン)衣装協力=perky room STYLIA(エミン) 構成=向山 勇
芸名パックン。1970年、米・コロラド州出身。93年、ハーバード大学比較宗教学部卒業。同年来日。福井県で英語教師を務めた後、97年、吉田眞と「パックンマックン」を結成。著書に『逆境力』(SB新書)など。
トルコ・イスタンブール出身。2004年に東京大学工学部を卒業。2006年に同大学新領域創成科学研究科修士課程を修了し、生命科学修士を取得。2006年野村證券に入社。2016年から2024年まで複眼経済塾の取締役・塾頭を務めた。2024年にレディーバードキャピタルを設立。著書に『夢をお金で諦めたくないと思ったら 一生使える投資脳のつくり方』(扶桑社)、『世界インフレ時代の経済指標』(かんき出版)、『大インフレ時代! 日本株が強い』(ビジネス社)、『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する 令和時代に日経平均は30万円になる!』(かや書房)などがある。