キスが気持ち悪い
千紗さんは10代の頃から、恋愛についてずっと違和感があった。
「少女漫画で育ったので、いつか恋愛するという思い込みがあって、高校で彼氏を作ってみたけど、全然、楽しくない。キスとか何がいいの? って。迫られて仕方なくしたけど、どちらかといえば、気持ち悪い」
大学生になり、女友達が恋愛に夢中になっていくのが理解できなかった。それでも、周りから言われる「まだ、いい人に出会っていない」説を信じていた。社会人になっても、「もっといい人がいれば、うまくいくんじゃないか」という期待から、彼氏を作ってデートをしたものの、ちっとも楽しくない。
「恋愛を知らないのは子どもだというプレッシャーがあって、ちゃんとした大人にならないといけないという焦りがありました。性行為の経験がないのも普通じゃないし、相手もやりたがっているから、この辺で一回やっておこうと思ったけど、思った以上に不愉快な経験で、いやいや、無理無理って強引に停止して、『悪いけど、帰るね』って帰ってきた。性行為って冷静に考えると、服脱いで触ってとか、間抜けな状態。私、何、やってんだろう? この時間って、何? って。我慢すればできたけど、そこまでして、やる意味を感じなかった」
アセクシャルという言葉に出合って解放された
どうして、こうなのか。「恋愛 できない」でネット検索しまくったところ、「アセクシャル」という言葉に出会った。30歳の時だ。
「あれ? 私ってこれなのかもって、突然、気づいたんです。アセクシャルは恋愛をしない、性的な接触を必要としない人たち。この概念に出会ったことで、私みたいな人が一定数いることがわかって安心しました。そういう人がいてもいいんだよと、やっと思えた」
これまで、何を足掻いてきたのだろう。彼氏を作るまでは頑張るものの、付き合うとなると一気に落ち込む。この人とデートをすると思うと、気が重い。実際、デートしても楽しくない。そりゃあ、そうだ。恋愛というマジックがあればこそ、異性とのデートは楽しいものであって、恋愛マジックが無ければ、たとえいい人でも、共通の話題もない異性との時間は疲れるだけだ。