してみて気づいた「結婚は必要なかった」という事実

「人生のパートナーを求めての結婚でしたが、結果的には無くていい。孤独でも大丈夫だとわかったし、ライフステージが変わっても友達がいなくなるわけではないので、そのままの私でいいんだと腑に落ちたんです。ただ、結婚を一度もしなかったら、結婚できなかった自分というコンプレックスを抱えていたかも。一度やってみて、要らないことが確認できたので、それよかったかな。恋愛相手でもない人と同じ家に住むのは簡単なことではないし、お互いが努力して歩み寄らないといけない。私はそこに、それほど労力をかけられなかった。あの時は切実に、結婚を必要としていたけど、女性に対する社会的圧力に巻き込まれていたと思う」

違和感はあったものの、世の「普通」に合わせようと“恋愛アタック”を試みた20代、結婚圧に抗する捨て身の“婚活地獄”を生き抜いた30代、男性が苦手なのに好きでもない男性と一つ屋根に暮らす40代。まさに、体当たりで嵐をくぐり抜け、ここまで生きてきた千紗さん。その彼女の、何と突き抜けた「今」なのか。結婚もパートナーも必要ないし、孤独も別に怖くはないと、自然体で心から思う。

「アセクシャルであることが、私にとって普通の状態。最初から、これが私のニュートラル。たまたま、世間の基準と違っているけど」

先輩だからこそ、若い世代に言えることがある。

「みんなが言っているからとか、普通はこうだからとかいうのを、引きずらないで。自分がしたいようにするのが、幸せだから。ただうっかり結婚すると、離婚は3倍難しい」

千紗さんの不適な笑みこそ、一つの希望だ。

黒川 祥子(くろかわ・しょうこ)
ノンフィクション作家

福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)などがある。