ドラマ「虎に翼」(NHK)では戦後、家庭裁判所ができ、民法も改正されて、主人公の同級生である弁護士夫人の梅子(平岩紙)が婚家を出ていく様が描かれた。ライターの村瀬まりもさんは「新民法によって、家庭に縛り付けられていた梅子が自由になる展開に感動した。しかし、史実では、この改正時まで生き延びられず、子どもを取り上げられることになって絶望した詩人もいる」という――。
2016年10月25日、開幕した第29回東京国際映画祭のレッドカーペットを歩く女優の平岩紙さん
写真=時事通信フォト
2016年10月25日、開幕した第29回東京国際映画祭のレッドカーペットを歩く女優の平岩紙さん(東京都港区の六本木ヒルズアリーナ)

「私は失敗した!」夫や息子たちに裏切られた梅子の魂の叫び

「もうダメ、降参。私は全部失敗した。結婚も家族の作り方も、息子たちの育て方も、妻や嫁としての生き方も全部!」

ドラマ「虎に翼」(NHK)で、ついに念願の裁判官(判事補)となった寅子(伊藤沙莉)。第13週「女房は掃きだめから拾え?」では、1949年(昭和24)、大学女子部法科および法学部時代の同級生、梅子(平岩紙)と10年ぶりの再会を果たしてからのストーリーが描かれた。

新設された家庭裁判所で、寅子は年上の友人であった梅子と再会。1932年(昭和7)、梅子は、大学の予科である女子部に入った時点で唯一の既婚者であり、有名な弁護士の大庭と結婚していた。しかし、大庭は今で言うなら典型的なモラハラ夫。何かと言えば妻のことを「役に立たない」とディスり、寅子たちの前でも妻サゲ発言をする。いつもは、学生たちのお母さんポジションでニコニコしている梅子が、そのときだけは「スン」と、当時の女性たちがよく見せる“心を殺した”表情になってしまったことに、寅子は気づいた。

梅子は、弁護士という立場にありながら女性蔑視思想に満ちた夫や、その思想をそっくりそのまま受け継いだ東京帝大生の長男に対抗するため、法律家を志していた。それは旧民法では、離婚しても母親は親権を持てず、否応なしに子どもを取り上げられてしまうからでもあった。「次男と三男だけは、夫のような人間にしたくない」。それが梅子の願いだった。

「女性に優しい男」に育てた三男を「夫の愛人」に利用された

猛勉強の末、寅子と共に高等試験法科(現在の司法試験)を受ける直前まで行ったが、試験の日、若い愛人ができた夫から離婚届を突きつけられ、「もう息子たちには会えないぞ」と宣告される。梅子は幼い三男を取り上げられないために、三男を連れて逃亡する。しかし、生活費を稼ぐ手段もない梅子は婚家に戻るしかなく、結局、戦争が激化した苦難の時代を大庭の妻として生きてきた。

しかし、戦後に夫が亡くなり、遺産相続問題が勃発。梅子の産んだ3人の息子と、夫の愛人が遺産をめぐって争う状態になり、家庭裁判所に相談に来たのだった。愛人は「ダンナさまが書いてくれた」という遺言書を持っており、全財産の相続を要求するのだが、当然、長男と次男、そして夫の母は猛反発。梅子にも、これまでの苦労を思えば相続放棄はできないという意地があったのだが、心の支えである三男が、女性に優しい子に育てたからか、あろうことか夫の愛人と恋仲になって彼女の味方をするので、ついに「白旗を揚げるわ」と、全てを捨て、婚家を出ることにしたのだった。