花岡のモデルは戦後、その死で名を知られた山口良忠判事か
「花岡が死んだ」
一斉にうなだれる司法省の裁判官たち。ドラマ「虎に翼」(NHK)の第10週「女の知恵は鼻の先?」は、衝撃的なシーンで終わった。ヒロイン寅子(伊藤沙莉)とは大学法学部の同級生であり、かつては結婚も意識したことがある判事の花岡悟(岩田剛典)が死亡したというのだ。
第11週ではその詳しい死因が描かれる。予告編に「判事がヤミを拒み、栄養失調で死亡」という見出しの新聞が出てきたことからも、花岡は有名な実在した人物・山口良忠判事をモデルにしているようだ。
山口判事は佐賀県福地村(現・白石町)の出身。1913年に生まれ、京都帝国大学法学部に進み、寅子のモデルである三淵嘉子と同じ1938年の高等試験司法科(現在の司法試験)に合格している。三淵氏の同期とも言える。佐賀出身という点も、花岡と共通している。
当時、三淵氏ら女性は弁護士にはなれても、判事(裁判官)・検事にはなれなかったが、山口判事は男性なのでスムーズに判事となり、第2次世界大戦終戦後の1946年、東京区裁判所第14刑事係の経済犯専任裁判官となった。戦後の混乱期、国が食料を統制していたものの、餓死者が出るほど食料が足りない中、主にヤミ(闇)米などを所持し「食糧管理法違反」で検挙、起訴された被告人の事案を担当していた。
「食糧管理法」で人を裁く立場だったので追い詰められた
この時代は、庶民はもちろん、旧華族や公務員も、ヤミ市や非正規ルートで米などの食料を手に入れなければ生きていけなかったという。つまり「みんな、裏ではやっている」という現状。しかし、「食糧管理法」(戦時中の1942年制定)が国の配給以外で食料を買うことは禁じていたので、ヤミでの売買が見つかると、逮捕、検挙されてしまう。
そんな矛盾した状況で、ヤミ売買を裁く立場にあった山口判事は、自分がヤミで入手したものを食べるわけにはいかないと妻に宣言し、配給でもらった食料は、まだ幼い2人の子に回し、お米のとぎ汁のようなものだけを口に入れるようになる。
「虎に翼」では、花岡が寅子と再会し、外のベンチで一緒にお弁当を食べるものの、花岡が「今は主に経済事犯専任判事として主に食糧管理法違反の事案を担当しているよ」と告げると、寅子がヤミ米で作ったお弁当を隠す場面もあった。
花岡は寅子を告発なんてしないと言うが、寅子は「でも、法を犯しているのは事実ですから」と言い、やはりそこには法に携わる人間として葛藤があるようだった。そして、花岡の弁当の中身は、麦と米のクズで作ったおにぎり1つだけだった。