国家公務員は3K職場になった

長時間労働イコール国家公務員のイメージが続く限り、国家公務員志望者が増えることはないだろう。希望する仕事に就けない、キツイ(長時間労働)を2Kとすれば、もう1つのKは給与だ。前述のヒアリングではこんな声が上がっていた。

「就職先候補の日系大手企業や外資系企業に比べて、国家公務員給与水準が低かった」
「生活水準に見合った最低限の給与があれば良いと考えているが、就職先候補の中で、国家公務員の給与水準は正直最低ランクであった。また、入社後の給与の伸びも比較していたが、それでも国家公務員は民間企業に比べて魅力はなかった」

ちなみに国家公務員の大卒初任給は約19万円、院卒で約22万円(手当抜き)とされる。民間の大手企業と比べても極めて低い。しかも2022年以降、初任給引き上げ競争が相次ぎ、今では大卒初任給は25万円が相場となっており、28~30万円を支給する大手企業も珍しくない。また、東大生に人気の外資系コンサルティング大手のアクセンチュアの新卒1年目の年収は430万円超(ボーナス抜き)とされる。

日本の給料袋
写真=iStock.com/Yusuke Ide
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親からも反対されかねないレベルの労働環境

給与の低さは前述の人事院の中間報告でもこう述べている。

「国家公務員の給与水準は、(中略)現在、企業規模50人以上の民間企業の給与水準との均衡を考慮して定めている。最近は大企業等において初任給を含む給与の大幅な引上げが行われており、特に総合職試験からの採用において競合する企業の給与と比べると、かなり見劣りするものとなっている」

民間企業の初任給引上げ競争の目的は言うまでもなく優秀な人材の獲得にある。公務員の給与が民間準拠で決まるとしても、給与の低さは獲得競争からすでに脱落している。

国家公務員は学生にとっては3K職場(希望する仕事に就けない、キツイ=長時間労働、給与が低い)であることは間違いない。民間企業であれば親からも「こんな会社に入るのはやめなさい」と言われかねないレベルだろう。それでも国家公務員という国民の暮らしと安全にかかわる公共的な仕事であり、やりがいはあるかもしれない。

しかし、本省に勤務するある課長補佐は人事院のヒアリングにこう答えている。

「給与水準については、①成果への然るべき報酬か、と同時に、②人材獲得の競合先と遜色ない水準か、という目線も必要。やりがい搾取を前提としていては、優秀層の獲得・維持は困難」(人事行政諮問会議事務局によるヒアリング等の概要)。

“やりがい搾取”は若者の間で一般化している言葉である。キャリア官僚自ら使っていること自体、何らかの対策を講じなければ、まさに「国家の衰退」につながる可能性もある。

溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。