意識的に「貧乏な国」になった日本
そもそも、今の日本はデフレ不況で大変だと一部で言われていますが、それも発想を転換してみましょう。
アメリカではラーメン1杯が日本円で3000円や4000円もするため、貧困層には食べられません。頑張って働いて高い賃金をもらっても、物価のほうが上がっているのです。貧富格差もますます進んでいます。つまり国民全体の参照点が上がっているのに、その参照点に到達できる人と、できない人がいるわけです。
一方、日本では寿司も焼肉もラーメンも安くて美味しいものが食べられますし、お金持ちが食べるラーメンと貧乏な人が食べるラーメンはだいたい同じです。コンビニや小売店でも安くて質のいいものが売られています。
私はまさにバブル時代に青春時代を過ごした世代ですから、学生時代にバイトで一生懸命お金を貯めては、7万円もするアルマーニのジーパンを買っていたものです。高いとは思いつつ、当時は周りもだいたいそんな感じでしたし、私自身もそれがかっこいいと思って、多少なりとも無理をして大金をはたいていたわけです。ほろ苦くも懐かしい思い出です。しかし、今の若者世代にとっては「ふ~ん、そんな時代もあったのね」くらいのものでしょう。
それもこれも、この30年で日本の貨幣感覚が「より安く、もっと安く」へと突き進んだからです。あえて言えば、意識的に「貧乏な国」になったのです。
目の前の幸せを享受せよ
1990年代に世界2位だった1人当たりGDPは、2024年には37位まで落ち、韓国(36位)にも抜かれました。
しかし、それほど貧乏になっているのに日本では美味しいご飯が安く食べられて、安くて品質の良い製品が揃っています。街も比較的、安全です。
もちろん、国民の平均賃金が上がって、みんなが豊かになっていくのが本来望ましいことでしょう。経済界には努力して実質賃金を上げてほしいし、そのための賃上げ要求なども必要だと思いますが、しかし日本が貧乏になったからといって、悲観的に捉えすぎるのも考えものです。文句ばかり言って、自分の人生自体を棒にふるなんて馬鹿げています。
下ばかり向いていると、閉塞感がますます強くなってしまいます。
「あの国は給料が高くて羨ましい」と、上ばかり見ていても、きりがありません。
日本はダメだと嘆くよりも、日本の良いところを認めて、それを世界に向けて発信していけばいいのです。
もちろん、下ばかり見ていたら幸せかといえばそんなことはなく、「あいつより俺のほうがマシだ」とか「あの国に生まれなくて良かった」などと自分より下を見つけて溜飲を下げる行為は、自分のマインドをネガティブな方向に向かわせます。こうしたマインドでは、自分の人生を楽しくしていくことはできません。
大事なことは、他の人や国と比べるのではなく、目の前の幸せを享受し、今の自分を心から大切にするということです。
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)など著書多数。