割合は低いが金額は大きい「弁償・代償のための自腹」
弁償・代償のための自腹が2022年度1年間で発生したと回答した人は回答者全体の6.7%(1034人中69人)だった。こうして発生した割合としてみれば大したことがないように感じられるかもしれないが、金額をみていくとそうもいっていられないのが弁償・代償のための自腹だ。
払った人の金額に着目すると、それなりの金額になっている(※4)。つまり、発生する可能性は低いかもしれないが、自腹を切らなければならなくなったときには決して少なくない負担が課されてしまうのが弁償・代償のための自腹だ。
さて、弁償・代償のための自腹についても職別にみていこう(図表5)。
小学校では、管理職層の17.3%(52人中9人)、正規教員の6.9%(362人中25人)、非正規教員の9.6%(52人中5人)が一年間で自腹を経験している。
中学校では、管理職層の13.5%(52人中7人)、正規教員の5.5%(362人中20人)が経験している。今回の調査の回答者には中学校の非正規教員で経験した人はいなかった。
事務職員だと2.9%(102人中3人)の人が経験したと回答していた。
管理職層が他の職と比較して若干発生率が高くなっているのが弁償・代償のための自腹の特徴だ。管理職や先輩にあたる立場の人が肩代わりをしていることが一因になっていると考えられる。
また、小学校と中学校で、管理職層同士、正規教員同士を比較しても発生率には大きな差がない。その一方で、非正規教員についてみると、中学校では弁償・代償のための自腹が発生したと回答した人はいないのに対し、小学校ではおおよそ10人に一人の人が発生したと回答している。
これは学級担任制が一般的な小学校と教科担任制が一般的な中学校で非正規教員の働き方に違いがあることが原因として考えられるものの一つとして挙げられる(※5)。例として、休み時間に子どもが教室の備品を壊してしまい、弁償の費用を請求することが難しい場合を考えてみよう。そうしたときには、その学級で何かしらの教科を受けもっている教員ではなく、担任をしている教員が自腹を切ろうとすることになりそうだ。学級担任制が一般的な小学校では、非正規教員であってもこの例のような事情から自腹を切らざるを得ない場面が相対的に多いのではないだろうか。
※4 具体的な金額については、『教師の自腹』第5章第2節の144ページ以降を参照。
※5 文部科学省「『教師不足』に関する実態調査」令和4年1月によると、令和3年5月1日時点で小学校では臨時的任用教員の73.4%が、中学校では43.7%が学級担任になっている。これだけで弁償・代償のための自腹の発生率に、このような差異があることを説明することは難しいが、原因の一つではあるだろう。
新潟大学大学院教育学研究科修士課程を経て、2011年、東京大学大学院教育学研究科博士課程に進学。2015年より千葉工業大学の教職課程に助教として勤務し、教育行政学を担当(現在は准教授)。2016年12月博士号(教育学)取得。「子どもを排除しない学校」「学校の自治」「公教育の無償性」の実現、「教職員の専門職性」の確立を目指し、教材教具整備・財務に関わる学校基準政策、学校評価・開かれた学校づくり・チーム学校等の学校経営改革について、現代的視点と歴史的視点の両面から研究している。著書に『占領期日本における学校評価政策に関する研究』、共著に『公教育の無償性を実現する 教育財政法の再構築』、『隠れ教育費 公立小中学校でかかるお金を徹底検証』など。
「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして社会へ情報を発信。研究関心は「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」など。主な著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年)、『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年)、『学校財務がよくわかる本』(学事出版、2022年)など。
日本学術振興会特別研究員(DC2)。筑波大学人間学群教育学類で教育社会学を学び、名古屋大学大学院教育発達科学研究科の博士課程に進学。専門は教育社会学、障害児教育。教育に医療の知識がもち込まれることに関心を寄せ、とりわけ情緒障害に着目し、歴史的な観点から研究をしている。主要業績として「普通学級における精神衛生的処置と『性格異常』」(『保健医療社会学論集』近刊)など。