「変動金利の繰り上げ返済はお得ではない説」誕生の背景

ただし、セオリーにも例外がある。それが、従来の変動金利の在り方だ。その要因として挙げられるのが金利水準。よく言われることだが、現在の変動金利の最安レートである0.3%前後というのは、金融機関の利益分がほぼ無い“採算度外視”の水準とみられる。こうした異常な低金利の背景には、長らく続いたデフレなどによる貸出難からくる、銀行間の競争も関係しているだろう。

また、「住宅ローン減税」の存在も見逃せない。個人が住宅ローンを利用してマイホームを取得すると、年末時点の住宅ローン残高の0.7%が所得税や住民税から控除される。0.7%が控除されるということは、0.3%で借りていれば“おつり”がくることになる(全額が控除された場合)。

おもに上記の2つの要因から、変動金利で借りた人は繰り上げ返済をするのはお得ではない、という考え方が定着していったと考えられる。

「ローンがあっても投資したい」はNISAの弊害か

だが、「住宅ローンを借りた状態で投資をする」となると話はまったく別だ。住宅ローンとは、こちらも資産運用の視点から捉え直すと、「巨額な株式の信用取引に近い」といえる。一般的な家計にとっては、過大なリスクを取っていると考えざるを得ない。変動金利の異常な低さのおかげで、限度枠いっぱいまで借りている人が続出しているような昨今、そのリスクはさらに大きくなっているといえよう。

そんなリスク過多の状態で、さらに投資のリスクを背負うというのは明らかに無理がある。あたり前だが、投資には損失が発生するリスクがあるからだ。

何らかの事情で、収入の減少に見舞われたとする。さらに、投資していたインデックスファンドが下落すれば、毎月の返済に支障が出てくる可能性は高まる。コロナ禍で収入が減り、住宅ローン破綻が急増して社会問題になったのは、つい2~3年前の話だ。

ローンと車と家が秤の上で釣り合っているイメージ
写真=iStock.com/William_Potter
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「住宅ローンがあるにもかかわらず投資をしたい」という発想は、NISAの“弊害”といってもいいのではないか。NISAがお得な制度であることは言うまでもないが、そのお得さが強調され過ぎた結果、「使わないのはもったいない」「長期でやればほぼ確実に儲かる」という“刷り込み”が浸透してはいまいか。

そこには、「投資は余裕資金でやる」という大原則が忘れられている。住宅ローンを払っていて、一定の貯金もあり、なお余裕資金があるという家計はどれくらいあるというのだろう。