ジェネラリストvsスペシャリストの不毛性
ジェネシャリストのメリットは「達成可能性」だけではない。
まず、ジェネラリストvsスペシャリストという不毛な対立を回避することができる。「立場」に由来する、対立だ。
これは世界的に言えることだと思うが、医者の間では「ジェネラリスト」は「スペシャリスト」に低く見られる傾向にある。
分かりやすいのはアメリカだ。アメリカは良くも悪くも、「価値が高いものは、値段も高い」。日本の場合は、価値が高いと思われる職種でも薄給なことはよくあるわけだが、アメリカはそこのところは徹底して資本主義的だ。だから、各専門分野のサラリーを見れば、アメリカ社会がその専門分野に抱いている「価値」が分かる。
2023年のデータだと、医者の中での「ジェネラリスト」とみなされる内科医、家庭医、小児科医の平均収入は総じて低い。29あるカテゴリーのうち、内科医は24位、家庭医は27位、小児科医は28位で、最下位の29位は公衆衛生、予防医学の専門家だった。
格差を覆すジェネシャリストの概念
逆に1位は形成外科で、年収は61万9千ドル、2位は整形外科で57万3千ドル、3位は循環器内科で50万7千ドルだった。
もっとも、28位の小児科医だって年収25万1千ドルであり、1ドル150円換算だと3千7百万円以上。日本であれば、十分な高給取りだ(アメリカのインフレ、日本のデフレ、そして円安の影響もあるけれども)。
しかし、論点はそこではない。アメリカでは小児科医の「価値」は形成外科医や整形外科医よりもずっと低く見られているのである。余談だが、私の属する「感染症」は26位で、一般内科医よりもさらに低い。アメリカでは(そして日本でも)感染症専門家の地位は低いのだ。
医者の世界を例に挙げたが、こうした職種格差はいずれの仕事にも見られるものだ。ジェネシャリストの概念は、そこに新たな景色を持ち込むだろう。「理系」「文系」を生んだ受験制度から派生した、社会の職業差別さえも覆すことができるだろう。
1971年島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学)卒業。ニューヨーク、北京で医療勤務後、2004年帰国。08年より神戸大学。著書に『新型コロナウイルスの真実』(ベスト新書)、『コロナと生きる』『リスクを生きる』(共著/共に朝日新書)、『ワクチンを学び直す』(光文社新書)など多数。