日銀がもっとも恐れていること

【ロジャーズ】日本も世界各国と同様にインフレが見えてきています。ただ、国が発表している数字は信憑性が低いものです。たとえばインフレを見る比率が違っていたりします。いちばん確かなのは肌感覚です。ただ、日本では長い間、インフレがなかったので人々の肌感覚がなくなっています。

インフレが起きた場合、それを抑制する方法は利上げをすることです。日本がインフレになっても、日銀は大胆な利上げをしないでしょうが、利上げは絶対に必要です。

最近の日本のインフレの状況について渡邉会長はどう感じていますか。

【渡邉】私は飲食店も数多く経営していますので、インフレの動向は注意深く見ています。日銀は「2%の物価目標が持続的、安定的に実現する見通しを確認できなければ、利上げをしない」と言っていました。

しかし、私の肌感覚では、すでに日本では3%を超えるインフレになっていると思います。このままインフレが続けば、いずれもっと金利を上げなくてはならないでしょう。日銀の10年前の議事録が公表されましたが、そこには「物価上昇率が2%を超えれば、政府や政治家が何と言っても、財政ファイナンスはやめる」と書かれています。日本が2%のインフレになり金利を少しでも上げざるを得なくなったので、イールドカーブコントロール※(YCC)もやめることになったのです。

※イールドカーブコントロール(YCC):金融機関が日本銀行に預けている預金の一部に、マイナス金利を適用して短期金利をコントロールし、長期国債を買い入れることで長期金利が0%付近で推移するようにコントロールすること

【ロジャーズ】この話はぜひ、渡邉会長に本にしてほしいですね。

【渡邉】エコノミストの方たちとも話をしていますが、インフレが2%を超えると金利を上げざるを得ません。しかし、大幅に金利を上げると日銀の国債の含み損によって、債務超過に陥ります。もしくはバランスシート(貸借対照表)の貸方の当座預金に金利がついて、本当の債務超過になります。

そのときに、「アメリカやヨーロッパの銀行が日銀の当座預金に預けている資金を引き上げるのではないか。日銀はこれをもっとも恐れているのではないか」とエコノミストは言っています。ジムさんは外国銀行が日銀の当座預金にある資金を引き上げることはあると想定していますか。

【ロジャーズ】歴史的に見て、さまざまな人たちに気づきが起きると、そこからショックが引き起こる可能性があります。その気づきとは何か。渡邉会長がエコノミストと話をしたように、外国の銀行が預金を引き出すこともその一つです。

そうした気づきが起きると、ショックの引き金になったり、問題がさらに大きくなったりする可能性があるでしょう。ですから、エコノミストが言った懸念が現実となり、そのときに相場が大きく動く可能性があります。

「日本はG7の中でもダントツに借金が多い。金利が上がれば日本は財政破綻する」と渡邊美樹氏
撮影=Takao Hara(Luxpho)
「日本はG7の中でもダントツに借金が多い。金利が上がれば日本は財政破綻する」と渡邉美樹氏

利上げが経済危機のリスクを高める

【渡邉】日本の金利は少しずつ上がっていますが、実は非常に大きな財政的ダメージを受けています。2023年9月時点での中銀が保有する国債の評価損は、過去最大の10.5兆円にも膨らんでいます。今後、金利がさらに上昇すれば評価損はさらに膨らんでいきます。メガバンクは金利上昇への備えを講じていたため、金利が上昇しても比較的影響は少なく、過去最高益を更新しました。しかし、主に国債で運用する地銀にとっては金利上昇による影響が大きくなります。

地銀97行の債権含み損は2023年9月時点で約2.8兆円。3月時点から半年で約60%も上昇しています。金利が2%程度まで上がり、より国債の市場価格が下がった場合、地銀の中には格下げされるところが出てくるでしょう。それが経済危機へのサインではないか、中銀の信用が失われるときではないかと私は考えています。利上げが経済危機のリスクを高めることは間違いないと思います。

ジム・ロジャーズ/渡邉美樹『「大暴落」 金融バブル大崩壊と日本破綻のシナリオ』(プレジデント社)
ジム・ロジャーズ/渡邉美樹『「大暴落」 金融バブル大崩壊と日本破綻のシナリオ』(プレジデント社)

【ロジャーズ】もし日本の地銀破綻が震源地となって、日銀に対する信頼性の低下、あるいは日本の経済ショックにつながった場合、世界中がその余波を受けるでしょう。日本は世界でも非常に重要なマーケットの一つですから、日本で大きなショックがあれば、世界的な経済危機につながります。そしていたるところでさまざまな企業が破綻するでしょう。そのとき、私は生き延びることができたらいいなと思っています

【渡邉】ある経済研究所によると、日銀は金利1%で赤字に、2.5%になると債務超過に陥るとされています。日銀の政策次第で円安はさらに加速し、ハイパーインフレを招くことは明らかです。

現在の日本が抱えている借金の増え方は、戦前・戦中と酷似しており、対GDP比の債務残高は、終戦時の200%と同水準に達しています。敗戦後は、強烈なハイパーインフレが国民を苦しめました。

日銀の異次元緩和は“奇襲”として短期間でやめ、成長戦略に本気で取り組むべきでした。いずれにしろ、日銀がお金を刷り続ければ、円の価値は薄まるという原理原則のとおり、今後、円安・インフレは避けられません。そして、このままでは日本は破綻を免れないと思います。

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ジム・ロジャーズ(Jim Rogers)
投資家

ロジャーズホールディングス会長。1942年、米国生まれ。イェール大学で歴史学、オックスフォード大学で哲学を修めた後、ウォール街で働く。73年にクォンタム・ファンドを設立し、ヘッジファンドという手法にて莫大な資金を運用して財を成した。ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並び世界三大投資家と称される。『大転換の時代』(プレジデント社)、『世界大異変』(東洋経済新報社)など著書多数。

渡邉 美樹(わたなべ・みき)
ワタミ会長兼社長CEO

明治大学商学部卒。2024年に創業40周年を迎えるワタミグループの創業者として、外食、宅食、有機農業、再生可能エネルギー事業などを展開し独自の6次産業モデルを構築。2011年、東京都知事選出馬。2013年~2019年、参議院議員を一期6年務めた。郁文館夢学園理事長兼校長として教育者の顔も持ち、政府教育再生会議委員なども歴任。公益法人「School Aid Japan」代表としてアジア3地域で350校を超える学校建設や孤児院を運営する。『大暴落』(プレジデント社)、『夢に日付を!』(あさ出版)ほか著書多数。