日米の株式市場は今後どうなるのか。世界的投資家ジム・ロジャーズ氏は「アメリカの株式市場は2009年以来、上昇を続けていて史上最長だ。しかし、そろそろ終わりが見えている。おそらく今年の後半には終わるだろう」という。ワタミ会長兼社長CEOの渡邉美樹氏との対談をお届けしよう――。

※本稿は、ジム・ロジャーズ/渡邉美樹(著)、花輪陽子/アレックス・南・レッドヘッド(監修・翻訳)『「大暴落」 金融バブル大崩壊と日本破綻のシナリオ』(プレジデント社)の一部を抜粋・再編集したものです。

世界的投資家ジム・ロジャーズ氏と渡邉 美樹氏
撮影=Takao Hara(Luxpho)

「そろそろ終わりが見えている」

【ジム・ロジャーズ(以下、ロジャーズ)】通常、アメリカの株式市場は大統領選挙の前年からほぼ上昇し、活況状態になります。そして、選挙の年にはさらに市場は明るさを増していきます。というのも、アメリカの中銀が大統領選挙のために大量にお金を刷るからです。歴史的に見ても、大統領選挙で支出が多くなった翌年は、何もしなくても景気が冷え込むことが多いのです。

アメリカの株式市場は2009年以来、上昇を続けていて史上最長です。しかし、そろそろ終わりが見えています。おそらく今年の後半には終わるでしょう。そのころには日本の市場もピークになっているかもしれません。日本市場は30年前の高値を更新(2024年2月22日)し、史上初の4万円台を記録(同3月4日)しましたが、今後はどうなるでしょうか。多少の下落はあっても、日銀が、ただひたすら高値を更新していくだけなのかもしれませんが、私は日銀がそんなに大金持ちだとは思っていません。

50年ぶりの円安が意味するものとは

【ロジャーズ】2022年3月以降、急激に円安が進みましたが、私は、それまで円安が起こらなかったことに対してむしろ驚いているほどです。私はもっと早くに円安が起こると予測していました。なぜなら、日本は何十年にもわたって、巨額な借金を積み重ねてきたからです。にもかかわらず、今になってようやく円安になった理由には、日本人の国民性が関係していると思っています。

これまで日本国民は、政府が「日本円を買いなさい」と言えば「はい、そうします」と従ってきました。この従順さが、円安になるのを遅らせた原因の一つだと考えています。

現在の円の価値は、50年ぶりの低水準になっています。では、50年前の日本はどんな国だったでしょうか。今とはまったく違う国でした。出生率も現在より高かったですし、国としてはもっともっと発展していました。今は借金が大きく増えたうえに、出生率が減っています。そう考えると、さらに円安になるのは明らかではないでしょうか。50年前の1970~80年には、円の相場は1ドル175~200円でした。同じ水準まで円安が進むことは大いにあり得ると考えられます。今は当時より人口動態が悪く、借金が多いので、50年前よりさらに円安に動く可能性は十分あります。

たとえば、エイリアンが地球にやって来て、日本を見たとしたら「この国に投資しよう」と思うでしょうか。借金が増え続けていて、人口が減っている国に投資しようとは思わないはずです。きっと「この国とは距離を置きたい」と思うに違いありません。その気持ちは、世界中の投資家も同じです。日本に投資する人がいなければ、円安はさらに進みます。

エイリアンがさらに詳しく日本を観察すると、「われわれと戦える若い男性が減っている」「これは支配するのに絶好の国だ」と考えるかもしれません。今の日本には、プラスになる材料は少ないのです。

ただし、円安は悪いことばかりではありません。円安によって儲かる企業もあるからです。短期的には日本に恩恵をもたらします。株価も一時的に上がるでしょう。しかし、長期的に見ると、プラスにはなりません。これまで自国の通貨を安くして成功した国を見たことはありません。今後も円安が続くとすれば、私はみなさんに「早く国を出なさい」と伝えなければなりません。

1ドル=360円まで円安進行。通貨安と借金増で破綻危機に

【渡邉美樹・ワタミ会長(以下、渡邉)】日本でバブルが崩壊して以降の約30年で日銀がお金を印刷した量をアメリカと比較すると、日本は実質的に6倍になっています。

バブル当時の為替相場は1ドル=100円程度でしたから、ほかの要因をすべて除いて極端な話をすれば、今は「1ドル=600円になっていてもおかしくはない」と言えます。日本は約30年前にバブルが崩壊して、そこから経済成長をしなくなったのですが、それでもお金の使い方を変えませんでした。日本は戦後ずっと同じようなお金の使い方をしてきたのです。

それどころか少子高齢化が進んだため、それを解決するために、より多くのお金を印刷してきました。政治家は特別に「たくさんのお金を刷ろう」と考えたわけではありません。経済成長していないにもかかわらず、何も考えずに今までと同じサービスを続けてきた結果、お金の量が莫大になってしまったのです。それが今の日本の実態です。

そう考えると、円安は少なくとも以前の1ドル=360円まで戻るだろうというのが私の考え方です。円安にはメリット・デメリットがありますが、基本的に通貨の強さは国力そのものですから、日本にとっては円高が必要だと思います。

【ロジャーズ】6倍という数字を含めて日本の現状をもっと発信してほしいですね。国内だけでなく世界に伝えるべきでしょう。日本の大きな課題である円安を解決するには、「出生率を上げる」「借金を減らす」の2つの方法しかありません。しかし、政治家や日本人はそれを好みません。だから円安はいっそう進むでしょう。

たとえば日本の政治家は「われわれは日本人だ」「誰よりも優れている」と言って、移民を増やそうとしません。歴史を見れば、人口が減り、借金が増えた国は破綻に向かうことは明白です。にもかかわらず、政治家は「今回は違う」と言うでしょう。「今回は違う」という言葉は本当に危険です。誰かがそう言うとき、大抵は間違っているものですから。

「日銀が何をしても円安トレンドは変わらないし、もっと円安は進むだろう」とジム・ロジャーズ氏
撮影=Takao Hara(Luxpho)
「日銀が何をしても円安トレンドは変わらないし、もっと円安は進むだろう」とジム・ロジャーズ氏

【渡邉】日本ではマイナス金利を解除したら円高になるといわれていましたが、解除発表後、円高どころか円安が進んでいます。マイナス金利になっていたのは、日銀の当座預金500兆円のうち30兆円しかありません。ほとんどマイナス金利は適用されていない。世界中の投資家に見透かされたのです。

マイナス金利を解除しようと、アメリカが利下げしようと、それは大きな問題ではありません。私は日本の国力の問題だと思います。構造的な日本という国の財政の問題です。そうした大きな視点からすれば、今の円安が一時的に円高に振れることがあっても、円安の大きな流れは2024年以降も変わらないでしょう。そしてさらに進むと考えています。

【ロジャーズ】中銀が何をしても円安のトレンドは変わりません。私は、この先、円高になるイメージはまったく持っていません。円がいまだにこの水準であることにむしろ驚いています。もっともっと円安になるはずです。

日銀がもっとも恐れていること

【ロジャーズ】日本も世界各国と同様にインフレが見えてきています。ただ、国が発表している数字は信憑性が低いものです。たとえばインフレを見る比率が違っていたりします。いちばん確かなのは肌感覚です。ただ、日本では長い間、インフレがなかったので人々の肌感覚がなくなっています。

インフレが起きた場合、それを抑制する方法は利上げをすることです。日本がインフレになっても、日銀は大胆な利上げをしないでしょうが、利上げは絶対に必要です。

最近の日本のインフレの状況について渡邉会長はどう感じていますか。

【渡邉】私は飲食店も数多く経営していますので、インフレの動向は注意深く見ています。日銀は「2%の物価目標が持続的、安定的に実現する見通しを確認できなければ、利上げをしない」と言っていました。

しかし、私の肌感覚では、すでに日本では3%を超えるインフレになっていると思います。このままインフレが続けば、いずれもっと金利を上げなくてはならないでしょう。日銀の10年前の議事録が公表されましたが、そこには「物価上昇率が2%を超えれば、政府や政治家が何と言っても、財政ファイナンスはやめる」と書かれています。日本が2%のインフレになり金利を少しでも上げざるを得なくなったので、イールドカーブコントロール※(YCC)もやめることになったのです。

※イールドカーブコントロール(YCC):金融機関が日本銀行に預けている預金の一部に、マイナス金利を適用して短期金利をコントロールし、長期国債を買い入れることで長期金利が0%付近で推移するようにコントロールすること

【ロジャーズ】この話はぜひ、渡邉会長に本にしてほしいですね。

【渡邉】エコノミストの方たちとも話をしていますが、インフレが2%を超えると金利を上げざるを得ません。しかし、大幅に金利を上げると日銀の国債の含み損によって、債務超過に陥ります。もしくはバランスシート(貸借対照表)の貸方の当座預金に金利がついて、本当の債務超過になります。

そのときに、「アメリカやヨーロッパの銀行が日銀の当座預金に預けている資金を引き上げるのではないか。日銀はこれをもっとも恐れているのではないか」とエコノミストは言っています。ジムさんは外国銀行が日銀の当座預金にある資金を引き上げることはあると想定していますか。

【ロジャーズ】歴史的に見て、さまざまな人たちに気づきが起きると、そこからショックが引き起こる可能性があります。その気づきとは何か。渡邉会長がエコノミストと話をしたように、外国の銀行が預金を引き出すこともその一つです。

そうした気づきが起きると、ショックの引き金になったり、問題がさらに大きくなったりする可能性があるでしょう。ですから、エコノミストが言った懸念が現実となり、そのときに相場が大きく動く可能性があります。

「日本はG7の中でもダントツに借金が多い。金利が上がれば日本は財政破綻する」と渡邊美樹氏
撮影=Takao Hara(Luxpho)
「日本はG7の中でもダントツに借金が多い。金利が上がれば日本は財政破綻する」と渡邉美樹氏

利上げが経済危機のリスクを高める

【渡邉】日本の金利は少しずつ上がっていますが、実は非常に大きな財政的ダメージを受けています。2023年9月時点での中銀が保有する国債の評価損は、過去最大の10.5兆円にも膨らんでいます。今後、金利がさらに上昇すれば評価損はさらに膨らんでいきます。メガバンクは金利上昇への備えを講じていたため、金利が上昇しても比較的影響は少なく、過去最高益を更新しました。しかし、主に国債で運用する地銀にとっては金利上昇による影響が大きくなります。

地銀97行の債権含み損は2023年9月時点で約2.8兆円。3月時点から半年で約60%も上昇しています。金利が2%程度まで上がり、より国債の市場価格が下がった場合、地銀の中には格下げされるところが出てくるでしょう。それが経済危機へのサインではないか、中銀の信用が失われるときではないかと私は考えています。利上げが経済危機のリスクを高めることは間違いないと思います。

ジム・ロジャーズ/渡邉美樹『「大暴落」 金融バブル大崩壊と日本破綻のシナリオ』(プレジデント社)
ジム・ロジャーズ/渡邉美樹『「大暴落」 金融バブル大崩壊と日本破綻のシナリオ』(プレジデント社)

【ロジャーズ】もし日本の地銀破綻が震源地となって、日銀に対する信頼性の低下、あるいは日本の経済ショックにつながった場合、世界中がその余波を受けるでしょう。日本は世界でも非常に重要なマーケットの一つですから、日本で大きなショックがあれば、世界的な経済危機につながります。そしていたるところでさまざまな企業が破綻するでしょう。そのとき、私は生き延びることができたらいいなと思っています

【渡邉】ある経済研究所によると、日銀は金利1%で赤字に、2.5%になると債務超過に陥るとされています。日銀の政策次第で円安はさらに加速し、ハイパーインフレを招くことは明らかです。

現在の日本が抱えている借金の増え方は、戦前・戦中と酷似しており、対GDP比の債務残高は、終戦時の200%と同水準に達しています。敗戦後は、強烈なハイパーインフレが国民を苦しめました。

日銀の異次元緩和は“奇襲”として短期間でやめ、成長戦略に本気で取り組むべきでした。いずれにしろ、日銀がお金を刷り続ければ、円の価値は薄まるという原理原則のとおり、今後、円安・インフレは避けられません。そして、このままでは日本は破綻を免れないと思います。

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