女性の介護士への男性利用者のセクハラ
小西さんはこれから支援の現場に入っていく福祉関係の学生にも、「性教育」を行う重要性を訴える。
「障がい者の性に関することを教えられないままに、現場に出ると、そこの対策がおろそかになりがちです。男性利用者から女性支援者へのセクハラは、割にいろいろなところであるわけですから」
障がい者にはもちろん、同じ人間として性欲もあれば、触れ合いたいという思いがある。日本社会が長年障がい者の性に蓋をしてきた結果、現場でさまざまな問題が噴出しているのが実情なのだ。
「介護、福祉の分野で、今は性に関することが保障されていません。今後は、生きる上で必要なこととして、そして支援者が安心して働けるようになるためにも、国として障がいのある方の性を考えていく必要があると思います」
「強み」に変えていく関わりを
小西さん自身、障がい福祉の分野に特化した講演会や障がい者の性に関するセミナーに参加したりと、常に学びを更新することを欠かさない。
「最近は、強度行動障がいのある方の支援について学び、資格を取りました。行動援護という資格なんですが、パニックを起こしやすくコミュニケーションをとることが難しいなど、意思の表出が難しい方の特性についても知っていかないといけないと思って。そういう方の性こそ、家族や支援者さんは困っていると思うので」
小西さんは「『障がい』とは、一つの特性であり、その方の一部分です」と語る。
「“障がいがある○○さん”ではなく、“○○さんには、こういう一面もあるね”と捉えていただきたい。その上で、それを強みに変えていけるような関わりができるといいなと思っています。例えばなんでもクヨクヨと悩みすぎる人のことを、思慮深く考える人なんだねと肯定的に捉えるといったように、ですね」
賽は投げられた。障がい者の性を、社会全体で考えていくための勇気ある一投を応援したい。
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)などがある。