人情喜劇に加えエンタテインメント性豊かな歌謡ショーを再現

【佐藤】そうじゃないとスズ子が安心して東京に戻れないですからね。銭湯にゴンベエや、アホのおっちゃん(岡部たかし)とかがワイワイ集まっているのって、僕の世代から見ると名作ドラマ「時間ですよ」(1970年TBS)みたいな雰囲気で懐かしかったです。人物名がなく「アホのおっちゃん」という役名になのもすごい。そんなの、ドラマ史上初めてじゃないかな(笑)。

【足立】それについても、役名をつけるべきだとか、いろいろ議論しましたけど、現実にはそう呼ばれている人が存在しているわけなので、そういう、名もなき人がいないという世の中にはしたくなかったんです。

【佐藤】そういう大阪らしい人情喜劇味がありつつも、単なる細腕繁盛記にはせず、笠置シヅ子の音楽が入ってきて、エンタテインメント性豊かになっていく。それがまたすばらしかったですね。僕も笠置さんについてはかなり研究してきたつもりでしたが、ドラマの中に乖離と符合があり、「なんか違うな」と思ったら、1週間の最後でこの言葉、この史実を持ってくるんだ! と驚かされることが多かった。良い意味でのマルチバース。もう、冷静な判断ができないくらいに面白かったです。

【足立】ありがとうございます。

足立 紳(あだち・しん)
脚本家、映画監督

1972年、鳥取県生れ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書きはじめる。松田優作賞受賞作「百円の恋」が2014年に映画化され、シナリオ作家協会 菊島隆三賞、日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。2016年、NHKドラマ「佐知とマユ」が市川森一脚本賞受賞、2019年、監督・脚本を手がけた「喜劇 愛妻物語」が東京国際映画祭最優秀脚本賞受賞。小説の新作に『春よ来い、マジでこい』(キネマ旬報社)がある。

佐藤 利明(さとう・としあき)
娯楽映画研究家、オトナの歌謡曲プロデューサー

1963年、東京都生まれ。笠置シヅ子、榎本健一、古川ロッパ、渥美清など、昭和の喜劇人やアーティストについてのコラムを執筆。著書に『笠置シヅ子 ブギウギ伝説』(興陽館)、『クレイジー音楽大全 クレイジーキャッツ・サウンド・クロニクル』(シンコーミュージック)、『寅さんのことば 生きてる?そら結構だ』(幻冬舎)などがある