大阪を主な舞台に「義理と人情」を描いたドラマ前半

【佐藤】僕は昭和歌謡の専門家としての視点からドラマを見ていたので、たしかに「おや?」と思った展開はありました。しかし、きちんと笠置さんの人生のエッセンス、その大切な瞬間を盛り込みつつ、そこに至る道筋は足立さんならではのアプローチでしたね。例えば「義理と人情」というテーマを描いたのはどうしてですか?

【足立】水川あさみさんが演じたスズ子の母・ツヤ、つまり笠置さんの育てのお母さんが義理を重んじる方だったようなので、「義理と人情」をキーワードにしましたが、言い古された言葉ではあるので、今の時代に通じる「義理と人情」とはなんだろうと考えました。最終週はスズ子が歌手を引退するという展開でしたが、その中でそれに対する答えを書いたつもりです。

【佐藤】それぞれのキャラクターとの関係で「義理と人情」が繰り返し描かれていましたね。まず、母親が「世の中は義理と人情やで」と言ってスズ子がその言葉を胸に刻む。そのスズ子が娘にまた「義理と人情やで」と言う……。ツヤが死ぬ間際、親子で夫婦漫才というかトリオ漫才をするのも面白かったです。

実は脚本家が一番こだわったサブキャラとは?

【足立】あの場面は台本の初稿を提出した時には、「え?」というような反応が返ってきましたが、「ここは漫才で」と頑張って押し通しました。仕上がりを見ると、もう少しベタな漫才っぽくなってもよかったかなとも思うぐらいです。

【佐藤】そうだったんですね。スズ子の実家である銭湯「はな湯」では、記憶喪失の名無しのゴンベエ(宇野祥平)が働いていて、ツヤさんが亡くなったあと、本庄まなみさんが演じるきれいな女性が現れて、ゴンベエと結婚し銭湯を継ぐという……。全部持って行っちゃった(笑)。吉本新喜劇みたいで面白かったです。

【足立】あのくだりはすごい反発もあって、賛否両論になりました。僕にとっては全体の中で一番好きって言っていいぐらいの場面なんですけど。あまり「脚本どおりに演じて」というタイプではないんですが、笑いには強いこだわりがある(笑)。

【佐藤】お母さんが亡くなって、柳葉敏郎さん演じるお父ちゃんは失意のどん底に落ちてどうなるんだろう? と思っていたら、そこでゴンベエに新しい家族ができる。一回、家族を喪失したけれど、「ここで新しい家族が生まれるんだ」という多幸感がありました。

【足立】まさにそういう雰囲気を出したかったんですよ。スズ子家族の大黒柱だったお母さんが死んじゃって、その週のうちにほわっとしたかったので、ゴンベエの大逆転を描きました。そんなファンタジーが成立するような下町の銭湯という舞台にも助けられましたね。