職場内の不倫が周囲に知られていても問題にしない

食品加工メーカーの法務部長はこう語る。

「たとえば妻子持ちの役員が社外で不倫をしている場合はそれほど問題にしません。プライベートの時間内の非違行為なのか、職場の秩序を乱す行為なのかに分けて考えています。社内の場合であっても、例えばある部署の役員と秘書役の女性がつきあっているようだという通報に対して、しっかりした証拠がない限り、追求することはありません。ただし、2人の関係を職場の誰もが知っていて、嫌な思いをしているなど、職場の秩序を乱している可能性がある場合は調査に入ります。その結果、事実が判明し、役員の信頼が職場で失われ、業務に支障を来していれば役職の剝奪や降格の処分をすることになるでしょう」

噂になっている程度なら何もしないし、職場内の不倫が周囲に知られていても証拠がなければ問題にすることもない。業務に支障を来すような事態が判明して処分を下すという事後的な処理をする企業が多いのかもしれない。

オフィスの窓の外を見ている男性
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事後チェックは時代遅れ

しかしこうした事後チェックはもはや時代遅れだろう。日本だけではなく、世界中でセクハラなどハラスメントが大きな関心事になっている。しかも外国人株主が多数を占めるグローバル企業であれば、幹部社員がセクハラ問題を引き起こせば顧客や株主の批判を浴びて、会社の信用を著しく傷つけることになる。その芽を防止するリスク管理の観点から厳格な倫理規定と事前チェックが求められている。

また日本企業の特有の問題として女性役員が少ないことが挙げられる。近年では女性の社外役員は増える傾向にあるが、内部登用の女性役員はいまだに少ない。不祥事を引き起こしたENEOSホールディングスも社外の女性役員はいるが、内部の女性取締役はいなかった(有価証券報告書)。

女性役員が増えれば、少なくともハラスメント行為を起こしかねない幹部社員のチェックも厳しくなり、役員に登用されることも少なくなるだろう。

社内・社外を問わずセクハラ行為を引き起こしかねない役員を一掃することは、なにより社員が切望している。

溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。