社員バッジを外したくなるような不祥事
経営トップによるセクハラ行為や女性絡みの経費流用など、モラルハザードによる不祥事が相次いでいる。ENEOSホールディングスの子会社のジャパン・リニューアブル・エナジーは2月21日、安茂会長の解任を発表した。同社によると、懇親の場で酒に酔って女性の体を触ったことが昨年12月の内部通報で発覚。内部調査の結果、セクハラ行為があったと認定し、解任に至った。
実はENEOSグループでは2022年8月、ホールディングスの杉森務会長グループCEOが那覇市の高級クラブでホステスの女性に暴行したとして辞任。23年12月にはホールディングスの斉藤猛社長が懇親の場で酒に酔って女性に抱きついたとして解任されている。
さらに23年8月、総合光学機器メーカーのタムロンの鯵坂司郎社長が親密な女性が関与していた飲食店の支払いなどに会社の金を3000万円超流用したとして辞任している。
コーポレートガバナンス(企業統治)の欠如やコンプライアンス違反ですまされる話ではない。海外の企業からすれば、日本企業の前近代性を露呈した事案であり、従業員にしても社員バッジを外したくなるような不祥事である。
アメリカの大企業で行われる役員登用前の“身体検査”
そもそも、こうしたセクハラ行為や女性に関係する事件を引き起こしそうな人をなぜ役員に登用したのかが不思議だ。
ENEOSの場合、石油元売り業界は実質2社の寡占状態になっており適切な競争原理が働いているとはいいがたい。そのような業界構造が企業体質やトップ人事に反映されことは不祥事を連発している一つの要因だろう。
しかし、それだけが原因ではない。人事や法務の責任者たちは、日本企業の役員人事の甘さについて口々に指摘する。
外資系企業では双方の合意がある社内不倫であっても辞任に追い込まれるケースが珍しくない。
複数の米系大手企業の人事部門を経験したことがある日本の消費財メーカーの人事部長は「アメリカの大手企業では、たとえ不倫ではなくても上司が部下と関係を持っている事実が判明すれば行動規範違反として処分されます。部長クラス以上の幹部は解雇も珍しくありません」と語る。
そして役員登用の際の“身体検査”に関しては「過去の女性関係を含めて徹底的に調査します。他社から役員を招く場合も外部の調査機関を使って調査しますし、そこで過去に女性関係でトラブルがあったり、女性関係にだらしない人といった噂でもあれば、決して役員にすることはありません」と語る。確かに今回のENEOSのような事件が発生すれば、株価や営業活動においても大きな損害を与えることは必至だ。
日本の役員人事は“トップの信頼の厚さ”で決まる
では日本企業はどうなのか。人事部長はこう語る。
「甘いなと思います。役員人事は経営トップの専管事項であり、トップの信頼が厚いというだけでたいした調査も行われずに選ばれる。実際に役員の女性関係の噂が飛び込んでくることもありますし、この人、大丈夫かなと思うこともありました」
その後、人事部長は経営トップに具申し、役員候補者の女性関係の調査をすることになったという。「社内の懲戒規定の処分歴などをデータベース化し、一目でわかるようにしました。過去の女性関係で処分歴だけではなく、外部の調査会社に委託して素行調査を実施し、問題があればトップに伝えるようにしています」と語る。
ようやくこのレベルなのだ。企業体質によっては、素行調査に問題があっても「トップの信頼の厚さ」が優先され役員に就くことは考えうる。
発覚しなければ見逃される
では他の企業はどうなのか。役員に関しては一応役員規程を設けているところも多い。サービス業の人事部長はこう語る。
「役員の要件として『能力、実績、品格・人格が優れていること』という文言があります。もし女性関係に問題がある人であれば、とても品格があるとはいえません。しかし、本人について詳しくチェックしているわけではない。実際に不祥事が発生すれば処分されるでしょうが、発覚しなければ見逃される可能性はあります。もし、将来の役員候補と言われている人であれば、人事担当役員から『身辺整理ぐらいちゃんとやっておけ』と言うことはあると思います」
役員登用に関しては厳格な規定もなければ、事前の調査などチェック体制も整備されていないという。そうなると、役員昇格後ないしは社長になって発覚した場合に処分するしかないことになる。
職場内の不倫が周囲に知られていても問題にしない
食品加工メーカーの法務部長はこう語る。
「たとえば妻子持ちの役員が社外で不倫をしている場合はそれほど問題にしません。プライベートの時間内の非違行為なのか、職場の秩序を乱す行為なのかに分けて考えています。社内の場合であっても、例えばある部署の役員と秘書役の女性がつきあっているようだという通報に対して、しっかりした証拠がない限り、追求することはありません。ただし、2人の関係を職場の誰もが知っていて、嫌な思いをしているなど、職場の秩序を乱している可能性がある場合は調査に入ります。その結果、事実が判明し、役員の信頼が職場で失われ、業務に支障を来していれば役職の剝奪や降格の処分をすることになるでしょう」
噂になっている程度なら何もしないし、職場内の不倫が周囲に知られていても証拠がなければ問題にすることもない。業務に支障を来すような事態が判明して処分を下すという事後的な処理をする企業が多いのかもしれない。
事後チェックは時代遅れ
しかしこうした事後チェックはもはや時代遅れだろう。日本だけではなく、世界中でセクハラなどハラスメントが大きな関心事になっている。しかも外国人株主が多数を占めるグローバル企業であれば、幹部社員がセクハラ問題を引き起こせば顧客や株主の批判を浴びて、会社の信用を著しく傷つけることになる。その芽を防止するリスク管理の観点から厳格な倫理規定と事前チェックが求められている。
また日本企業の特有の問題として女性役員が少ないことが挙げられる。近年では女性の社外役員は増える傾向にあるが、内部登用の女性役員はいまだに少ない。不祥事を引き起こしたENEOSホールディングスも社外の女性役員はいるが、内部の女性取締役はいなかった(有価証券報告書)。
女性役員が増えれば、少なくともハラスメント行為を起こしかねない幹部社員のチェックも厳しくなり、役員に登用されることも少なくなるだろう。
社内・社外を問わずセクハラ行為を引き起こしかねない役員を一掃することは、なにより社員が切望している。