三食自炊でお風呂は9時半、寝る前には「報道ステーション」
「編み物が好きで、家にいる時はずっとやってんの」
椅子に座ってこたつに入る堀野さんの前には編みかけの編み物と毛糸、お茶のセットとポットなどが置かれている。
「朝は必ず、6時半に起きるの。手を洗い、入れ歯を洗って、うがいをする。それから顔を洗うんだけど、すすぐのは10回。これは、お客さんにも言ってんの。そしたら、こたつに道具を出して、ここで化粧をする。毎日、必ず。いつ誰が来るかわからないから」
わが身を省みて、誰にも会う予定がない時はほぼノーメイクの自分が恥ずかしい。
「次は、ご飯の支度。おみおつけ(味噌汁)は大概、作ってあるの。一回では食べきれないから、残ったのを温めて。ご飯は、測ってんの。もっと食べられるけど、太んないように150グラムって、決めてるのね」
3食とも自炊で、1日のサイクルを乱さないことも健康の秘訣だと言う。
「ご飯を食べ終わって薬を飲んだら、それから編み物。昼を食べたらポーラの仕事をして、3時からまた編み物。6時半にご飯を食べた後も、9時過ぎまで編み物だね」
長い時で、1日に10時間も編み続けることもあると言う。とにかく編み物が好きなのだ。
「夜の10時までは、お客さんから電話があるかもしれないから、居間で過ごすの。電話をくれたのに、出られないと悪いから。そこからお風呂に入って、湯船で足首の上げ下げ、肩甲骨を広げる動き、両手をあげて30秒! 毎日かかさずストレッチをする」
お風呂での洗顔は入念に、洗顔クリームで肩やデコルテまで洗う。
「お風呂から上がったら、『報道ステーション』を必ず観るの。1日のことがわかるから。野球が好きで、取材で、大谷翔平がホームラン44本で終わったとか、ヌートバーの話とかをすると、『よく、分かってるんですね』なんて言われてね。誰とでも、それで話ができるの。それで最後にみんな、お辞儀をするでしょ。背中まで平らにしてお辞儀するから、それが面白くて私もお辞儀するの(笑)。そのあと、すぐに寝るんだ」
話しながらお茶も淹れてくれた。ストーブの上にかけられた、湯気の立つ重そうなやかんを持って大丈夫かとハラハラしたが、堀野さんは何のその。腕の筋力が衰えていないさまを目の当たりにさせられた。
これが私の生活
まさに、“老後無き人生”まっしぐらだ。最後に、堀野さんにとって、仕事とはどんなものか聞いた。
「特別に“仕事”というんじゃなくて、それも全部ふくめて私の生活なの。朝起きてごはんを食べて編み物をして、お客さんと話してっていう全部がね。それに、お客さんのところに行って、困ったこととか話すとお客さん、胸がスーッとするでしょう。昔からの知り合いでもないし、わたしみたいな距離感は話しやすいみたい。人に喜んでもらえると、わたしも幸せに思うから、これは天職よね。よく、『100歳まで頑張ります』と言う人がいるけど、そんなふうに思ったことはないね。仕事をつらく感じたこともない。ただ、これが私の生活なの」
100歳に、大した意味はない。何の気負いもなく、堀野さんは「今」を生きる。
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)などがある。