今野由梨さんは日本で初めて電話での相談サービスを立ち上げ55年もの間、社長としてダイヤル・サービスを率いてきた。自身の子どもを持つことはなかったが、私財を投じて何人もの発展途上国の若者の親代わりをしてきたため「国境なきお母さん」の異名を持つ。今野さんは「私には貯金も資産もない。でも老後に不安はない」という――。

藪の中にけもの道をつけてきた

わが国のベンチャー企業の草分け、ダイヤル・サービスを立ち上げた今野由梨さんは、自分より若い世代の起業家のことを「かわいいけもの」と呼ぶ。自分は若い起業家(=けものたち)が少しでも前に進みやすいように、藪の中にけもの道をつけてきたのだという。

ダイヤル・サービス社長 今野由梨さん。
撮影=市来朋久
ダイヤル・サービス社長 今野由梨さん。

今野さんがつけたけもの道は、もちろん起業家のためのものだけではない。働く女性のためのけもの道もたくさんつけてきた。

いま、雇用機会均等法の一期生たちが還暦を迎える年齢になったが、彼女たちの中には男社会の中で働き続けるために出産を選択しなかった人も多く、そんな自分の生き方を肯定し切れない女性もいると聞く。

長年、ダイヤル・サービスの事業を通じて女性の悩みに耳を傾け続け、自身、子どもを産まずに働き続けてきた今野さんは、一期生たちの生き方をどのように見ているだろうか。

自然にそうなったなら

「時代とともに生き方、暮らし方が変わっていくのは当然のことですよね。私たちの世代が社会に出た頃(今野さんは就活全敗。前編参照のこと)と比べたら、よくも悪くも、これが同じ国かと思うぐらい変わりましたね」

均等法の一期生たちも、まさに時代の変化に翻弄ほんろうされた世代だと言えるが、今野さんは子どもを産まなかったことを後悔していないのだろうか。

「私は6人姉妹だけど、私以外はみんな結婚して、子どもを産み、子育てをしました。私は小さい頃から、他の姉妹とは考え方も違ったし、役割もぜんぜん違ったから、自然にこうなったという感じです。妹たちが子どもを産んだのも自然なことだった。産む産まないという選択が自然なことであれば、それでいいんじゃない? もちろん、社会の仕組み、会社の仕組みによって産めなかったということは絶対にあってほしくないけれど」