ローンの名義は夫だろうというアンコンシャスバイアス

女性が(収入面で)メインに立つということが、普通じゃないわけですよね、この国では。例えば、住宅ローンとかに関してもそうです。サラリーマンとは違って、決まった所得がないというふうに妻が考えているというのがあるとは思うんですけど。

銀行など金融機関の窓口で、夫婦で住宅ローンの相談に訪れた際、先方の担当者が夫のほうばかりを見て話しかけ、妻を一切見なかったなどという話を聞いたことがないだろうか。これは、典型的なアンコンシャスバイアス(無意識のバイアス)の一例だ。偏った見方や思い込み、先入観が知らず知らずのうちに、頭に刻み込まれ、その人の固定観念や既成概念として定着していく。金融機関の担当者は、男性=夫のほうが、女性=妻よりも稼いでいるに違いないというステレオタイプの印象を何の疑問もなく抱いており、ローンの名義も夫になると確信しながら話しているのだ。実際には、妻の収入のほうが上回っているだけでなく、ローン名義は妻の単独だったり、妻が家計の主導権を完全に握っていたりする例があるにもかかわらず、だ。

男女間の賃金格差のイメージ
写真=iStock.com/Andres Victorero
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稼ぐ妻の中にもある「働くのは男性だ」という意識

内田さんの妻は、しばしば内田さんに対し、こう漏らす。「もう、こんなに稼がなくてもいいんじゃないかな」。これに対し、内田さんは仕事をセーブするよう勧めてみるものの、妻は何らペースを変えることなく働き続けており、結局は妻の一時的な愚痴で終わっているという。

女性がそんなに働かなくてもいいというか、女性が家事・育児を担うというのがレギュラーな状態だというのが、「常識」だと思っているのではないでしょうか。それなのに、どうして自分が、こんなに働かなければいけないのかって、思っているんでしょうね。

日本社会に横たわり続けており、内田さんが「常識」と指摘するジェンダー役割規範を巡る硬直性は、自分が働き続けなければいけないと思い込んでしまう男性だけを苦しめるのではない。「やはり働くのは男性なのだ」と女性にも思わせてしまう面があり、これが内田さんの妻の意識に影を落としていることが、この発言から浮き彫りになっている。

(夫より稼ぐのが)イレギュラーじゃなければ、「稼がなくてもいいんじゃないか」という発言自体、出てこないはずじゃないですか。でも、それが当たり前のように口から出てくるということ自体、やっぱり、まだ過渡期なんだなと感じますよね。

専業主婦が大半だった昭和時代は、「男たるもの、一家の大黒柱としてバリバリ外で働き、家事育児は妻に任せて、妻子を養う」という価値観が、ごく当たり前だった。平成を超え、令和に移り変わった今も、この価値観が働く女性をも縛っていることがうかがえる。

小西 一禎(こにし・かずよし)
ジャーナリスト 元米国在住駐夫 元共同通信政治部記者

1972年生まれ。埼玉県行田市出身。慶應義塾大学卒業後、共同通信社に入社。2005年より政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。17年、妻の米国赴任に伴い会社の休職制度を男性で初めて取得、妻・二児とともに米国に移住。在米中、休職期間満期のため退社。21年、帰国。元コロンビア大東アジア研究所客員研究員。在米時から、駐在員の夫「駐夫」(ちゅうおっと)として、各メディアに多数寄稿。150人超でつくる「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。専門はキャリア形成やジェンダー、海外生活・育児、政治、団塊ジュニアなど。著書に『妻に稼がれる夫のジレンマ 共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)、『猪木道 政治家・アントニオ猪木 未来に伝える闘魂の全真実』(河出書房新社)。修士(政策学)。