海外同行期間はキャリアブランクとみなされる
では、夫の海外赴任に同行した妻にとって、その経験自体はマイナスになるのだろうか。
キャリアを重ねた女性にとって、配偶者の転勤は自らのキャリア中断につながりかねない。一方で、何かしらのスキルを獲得しようと考え、現地で働くことを希望する妻もいる。
日本でキャリアを積み、現地で就労した高学歴の妻らを対象とした調査では、彼女たちが自己洞察力や状況次第での対応力などのスキルを帯同経験から得たことが分かっている。
しかし、帰国後に再就職した企業からは、海外同行期間自体がキャリアブランクとみなされるため、ブランク中に得たスキルは求められていないと自ら判断し、キャリア形成上で遅れになる同行経験はしていなかったかのように振る舞うことが分かっている。
さらに、男性優位社会の中で働いてきた女性は、夫の海外赴任に同行するため一時的に仕事から離れることにより、自らを「キャリアから降りた人間」と認識する。キャリアを中断した以上、それと同等の対価を何とか得ようと考え、同行経験をポジティブに捉えようとして、現地就業に踏み切る。しかしながら、現地就業はあくまでもキャリア中断時における一つの行動に過ぎないとして、これまでキャリアを重ねてきた日本に帰国しても、再就職で生かせるスキルとはまったく別の物と考える傾向にある(高丸二〇一七)。
求められる「妻」や「母親」の役割
このように、駐妻経験をことさらに隠さなければならない事情や背景にはどのようなものがあるのだろうか。
日本でのキャリアを中断し、現地に赴いた駐妻は、仕事生活から家庭生活に重心をシフトせざるを得ないため、葛藤に直面する。夫の会社関係で開かれるパーティーへの出席や、お返しとしてのパーティー開催、ボランティア活動への参加などが求められることがあるが、そこで期待されるのは、あくまでも夫を支える「妻」(伊佐二〇一三)としての役割だ。
子どもの学校関連でも「母親」であることが大事であり、働いていた当時とはかけ離れた日々を過ごすことになる。そうした現実に困惑し、働くことへの渇望が強まることも明らかになっている。