尊重の言語化、現実の言語化

相手はどんなことを大切にしているのか、相手はどんなことを恐れているのか。それを知ろうとすること、それが間違っていたら問い直すこと、それが尊重の言語化です。そしてそれができるからこそ、共生の言語化が初めて可能になります。

また、現実の言語化を進めることも重要です。例えば「なんで勝手に仕事を進めてるの? そんなにあなたは優秀なの?」と責めるとき、本当はどんなことが起きているのでしょうか。

もしかしたら「チームの成績が下がるのが恐ろしい」「自分がダメなリーダーだと思いたくない」「みんな自分の思い通りに動いてほしい」「なんで動いてくれないの⁉」という恐怖、不安で頭がいっぱいになっているのかもしれません。

そして、そんな不安を与えた人に対して攻撃的に振る舞っているのです。

よりよい方法を一緒に考えていく

もしもそんなふうに自分を言語化できたら、こう相手に伝えられるかもしれません。「ごめんね、思ったよりも話が進んでいて驚いちゃった。どういう経緯だったか簡単に共有してもらえる? 勢いよく仕事を進めたいタイプだと思うから、水を差すようでごめんね。ただ、ここからの仕事の流れを考えると、このときと、このときにも、事前に状況を共有してから顧客に提案してもらえると嬉しい」というように。

中川瑛『孤独になることば、人と生きることば』(扶桑社) 

これは最終的には相手の仕事のやり方を変えているかもしれません。しかし、相手がどんなことを大切にしているから、こういう行動を取っているかを想像し、それを尊重しつつ、自分が感じている不安や、次にやってほしいことを明確に伝えています。実際の会話はもっと複雑でしょうが(勢いよく仕事を進めたいタイプかと思ったら、実際には同僚に相談して確認をとっていたから大丈夫だと思い込んでいただけなのかもしれない)、することは概ね同じです。

自分と異なる言動を取る相手の感じ方や考え方を想像し、それを尊重しようとし、想像や尊重の方法が間違っていたら、また尋ね直し、よりよい方法を一緒に考えていくのです。また、なぜ自分が相手の行動に違和感を覚えたり不安を感じたのかを想像し、それを攻撃的ではない形で伝える。これが共生の言語化です。

中川 瑛(なかがわ・えい)
「GADHA」代表

妻との関係の危機から自身の加害性に気づき、ケアを学び変わることで、幸せな関係を築き直した経験からモラハラ・DV加害者変容に取り組む当事者団体「GADHA」を立ち上げる。現在は加害者個人だけではなく、加害的な社会の変容にも取り組んでいる。