※本稿は、西尾太『人事で一番大切なこと』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
「人が来ないから給料を上げよう」という考えは要注意
採用には「給与」の問題があります。
給与を上げれば人が採用できるでしょうか。
確かに短期的には効果があるかもしれません。しかしそれだけでは、もし他社も給料を上げてくれば、その人は簡単に転職してしまうかもしれません。
また、「入社後の給与アップは何をもって行なうのか」などもしっかりと考えておかなければなりません。入社時は高かったけど、その後は上がらない、ということではモチベーションも上がらず、離職につながります。
私たちのクライアントで、給料は決して高くない(というかかなり安い)会社があります。しかし魅力的な事業をしており、優秀な若手を集めて育てています。
その会社は経営ビジョンがしっかりしており、いまは安いけど将来は収益を上げて給料も上げていく、という道筋が見えています。もちろんその通りに行くかどうかは今後次第でしょうが、少なくとも事業の意義と将来の希望はあります。
求める人材像とともに、企業の中長期的なビジョンを明確に示すことも有効です。
休みが多く残業が少なくても、成長できなければ定着しない
休みを増やして労働時間を減らせば人が採用できるでしょうか。もちろん、ブラック企業といわれる会社の「超長時間労働」は肯定できません。
一方『日経ビジネス』にこんな記事がありました。
「“いい会社”になったはずなのに何か変 その会社『ゆるブラック』です」。
「ゆるブラック企業」という言葉は2021年頃から登場してきました。
働き方改革を進めるあまり、「ただ残業を減らす」ということを行ってきた結果、たしかに労働時間は減ったが、「働きがい」「やりがい」までもがなくなってしまった、というものです(図表1)。
結果、若手が離職していきます。「たしかに労働時間は減ったけど、ここにいては力がつかない、成長できない」と思ったというのです。そして優秀とされる社員ほど、そう思う傾向があるように思えます。
「残業が多くても文句を言われ」「残業を減らしても文句を言われる」とお思いかもしれませんが、そもそも「残業はよくないから減らそう」「休みが少ないのはよくないから増やそう」という一方向の価値観と施策展開は、逆効果も生むわけです。
社員が求めているのは「楽な仕事」ではないかもしれません。「厳しくても成長する実感が得られる仕事」を欲しているわけです。自社が社員に何を求めるのかをしっかり考えてから、人事施策を展開すべきなのです。