「どうする家康」には40年間の研究の進展が反映されていた
今年のNHK大河ドラマ「どうする家康」は、徳川家康を主人公にしたものだった。家康を主人公としたものは、1983年の「徳川家康」以来であり、実に40年ぶりになる。私は前作をリアルタイムで視聴し(高校生だった)、いまではDVDで時折視聴している。今作についても毎回視聴し、Blu-ray BOX(まだ2巻までしか発売されていないが)を購入して、繰り返し視聴し、ドラマとして楽しんでいる。もっとも同じ家康の75年におよぶ生涯を取り上げているにもかかわらず、作品の内容は大きく異なっているところが多い。それはすなわち、この40年における家康をめぐる研究の進展によるといってよい。
前作の内容は、『三河物語』や『徳川実紀』といった江戸時代成立の史料が下敷きになっていた。それは江戸時代に作り上げられた家康像であり、それが現在でも通説として流布しているものになる。
ところが今作では、それら江戸時代に成立したエピソードについて、作劇上、効果的となるものはそのまま取り入れられているが、随所に近年の研究成果が取り入れられていて、大河ドラマ好きとしてだけでなく、一人の歴史学者として視聴しても、大いに見応えのあるドラマに仕立て上げられていると感じている。
家康像の再検証は20年前から、まだまだ研究は進んでいない
家康に関する研究は、実は現在でも十分に進んでいる状態にはない。50年ほど前までは『徳川実紀』を基にすれば、家康の生涯を把握できると認識されていた。ところが40年ほど前から戦国時代研究は、当時の史料を基に実像の解明がすすめられるようになり、それによって江戸時代成立の史料の内容には、事実にそぐわないところが多くあることが認識されるようになった。
そうして家康についても、20年ほど前から当時の史料に基づいた研究がおこなわれるようになったが、本格的に進められるようになったのは、ここ10年ほどのことでしかない。しかもその成果が、一般書として広く普及する状態にはいたっていなかった。家康研究は、実はまだまだ新しい領域なのである。
今作の放送にともなって、そうした近年の研究成果を集約したような、家康の生涯を概観した著作がいくつか刊行された。それによって世間はようやく、最新の研究成果を把握することができることとなったであろう。