上下逆転劇で、元上司にどう動いてもらうか

マネックスグループに入社してから、少しずつ率いるチームも大きくなりましたし、チャレンジする内容も濃くなっていきました。

最初に社長に就任した際、上下関係が逆転して考えたことは「元上司たちにどう動いてもらうか」。報酬体系を変えたり、働いただけその人が儲かる仕組みをつくりました。ただし、人の気持ち、例えば、元々社長で上司だった人が突然一プレーヤーになる気持ちはわからず、ずっと悩んでいました。とはいえ悩んでも答えが出ないなら時間の無駄。社長になって以降は、自分の時間を使っても解決できないものがあると気づき、プライベートを充実させることにしました。趣味が多く、プライベート時間が充実しているからこそ、毎日笑顔で仕事に行けることが大きいと思っています。

そんなことをしていたら、経営者にとって必要な覚悟とは何か、決断力や巻き込み力など、自分だけで考えていたら絶対にわからないことが見えてきました。わからないことは教えてくださいと、謙虚に願いする。人の力を借りるということがおのずとできるようになりました。

人を巻き込もうとするとき、人が寄ってきてくれないと巻き込めません。だから「人を好きであること」に努めました。「笑顔の人には人が集まる」「笑顔が人を巻き込める」と、今もずっと大切にしています。

ただし、最初から人にお願いばかりしていると、何がわからないかすらもわからなくなります。人の力をどれだけ借りられるかが、組織の力を大きく強くするのにとても重要。1回自分で考え、わからないところはとにかく誰かに頼るということをやっていくと、組織が強くなるのではないかなと思います。

それから“成功への執着心”と“失敗で終わらせない”こと。何かをやって失敗したときに、「失敗した」ではなく「仮説が違っていた」と思うようにしています。そうすることで「やったことは失敗ではなく、すべて成功で終わっています」と結果を変えられる。一つひとつ切り替えて考えることをとても大切にしています。

「リーダーシップは英語と同じ」の意味は

トップになって権限を使うということを覚えたなと思います。ポジションは役割でもあり、それなりの権限もありますが、結局使えない人が多いんですよね。

社長になった後に、松本が「清明は権限を使い切る人間だった」と言っていたのをあるメディアで読んで知りました。

権限委譲って、移譲する側は「この人ならやれるだろう」と思っても、受け取る側が全然受け取れず、結局、上位者にあれこれ確認しに行くことが多いと感じます。でも意外と権限を使って決めたほうが上に立つ者としてラク。私はそう気づかずにやっていましたが「そういうことだったんだな」と後から知りました。

マネックスグループ代表執行役社長CEO/マネックス証券代表取締役社長・清明祐子さん
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

かつて松本が「リーダーシップは英語と同じ。使わないとうまくならない」と言っていました。単語をたくさん覚えても実際には英語をしゃべれないことが多く、積極的に使わないとうまくなりません。リーダーシップも経営も同じで、使いながら力を磨くしかないんですね。